あしかのらいぶらりぃ
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執筆者: 紅猫/投稿日時: 2013/07/16(火) 22:01:19
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メインのあの子のお話。

外見だけで差別ってよくないよね。(私が言えたことじゃないけど)
異形少年



ピピピピピピピ…
朝6時。目覚まし時計の音がうるさく鳴る。
僕は耳を押さえて我慢をする。

「まだ寝ていたいよ…」

ピピピピピピピピピピピピピ…
音が少し大きくなった。

「…なんでこんな目覚まし時計買ったんだろ…」
僕は頑張って手をのばし、時計の音を止めた。
今日も、学校へ行く日だ。

嫌だ。行きたくない。外にだって、出たくない。

でも、行かなければならない。
ベッドから出て、寝ぐせを直し、ノートなどを入れたバッグを帽子の中に入れ、食パンをかじる。
これで学校へ行ける…ハズがない。
マフラーをしないと学校に行けない。たとえ、気温30℃を越える真夏でも。
「………」
僕は何も言わずに家を出た。
僕の住んでいる町、『ジルエットタウン』はごくふつうの町。流星族、獣人族などが住んでいる。

ちなみに、僕は獣人族だ。よく、「差別されている」と言われているが、
この街ではそんなことはない。
…おかしいのは、僕だけだ。

そして学校の門の前まで来た。
すると、近くを歩いていた少女がハデに転んだ。
泣いていたが、声をかけるつもりはない。


あの子だって、どうせ同じなんだ。



----------


やっと教室についた。
荷物を置いて窓際の席に座った。マフラーだけは外さない。
今日も朝から騒がしい教室だ。

「まぁたマフラーつけてきたのか?とれよ。暑苦しくて見てらんねぇ…」
「あぁっ!」
うしろにいた二人組みにマフラーを取られてしまった。

「相変らず、だな。何なんだよお前…気持ち悪いなぁ!」

僕がマフラーで隠していたのはしっぽ。生まれつき、僕にはしっぽが2本ある。

周りの皆が、何を言っているのかが聞こえない。
掃除用具入れの前でこっちを見てひそひそ喋っている女の子達は何を言っているのか。
廊下にいる先生はこっちを見て何を考えているのか。
皆は僕をどう思っているのか。

…そんなこと、どうだっていい。どうせ皆、同じことを考えているんだ。
【アイツは変だ】って…

先生にだって、何回も泣きながら相談した。それでもダメだったんだ。

僕に味方はいない。




分かってたよ、最初から。




…もう、あきらめてるよ。


----------

帰り道で僕はふと、昔の事を考えていた。――生まれた頃の記憶。


幼かった頃の記憶は曖昧で、両親の顔すら分からない。

覚えているのは「学校に入るまで、肉親ではない誰かに育てられていたこと」。
どうしてその人に育てられることになったのかは分からない。僕が暮らしていたのは何処だったかな。

何があって、この町に来て、あの学校に入ったのかも覚えていない。どうしてこんなに記憶が無いのだろう…。

僕を育ててくれたのは…確か、真っ赤な花の飾りをつけた女の人だったような。周りと違う僕に優しくしてくれたっけ。



名前は思い出せないけれど、もういいんだ。




僕はもうすぐ、この世界からいなくなるんだから。


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家に帰り、荷物を放り投げ、引き出しの中のカッターナイフに手を出した。



これで、全てが終わる。虐められる日々も、声も出さずに泣く時も、自分が生まれたことを後悔するのも、




……僕の人生も。全て、終わる。

「もう、いいよ…。」














『あなたは、本当にそれでいいのですか?』









「!?」



どこからか飛んできた何かが手に当たった。
カッターナイフは弾き飛ばされ、ベッドの下に入り込んでしまった。もう手は届かないだろう。

声がした方を見てみると、そこには女の人が立っていた。
僕と同じ…獣人族だ。

『絶滅したはずの九尾狐の一族、そして猫又の一族…その両方の血を引いている者はあなただけです。そう簡単に命を落としてはなりません…』

九尾狐?猫又?…この人は何を言っているんだ。

「…ほっといてよ…っ!君が誰だか知らないけど、どうせ皆と同じなんでしょ…」

『あなたの気持ちはよく、分かります。虐められ、苦しんでいるのでしょう…。
では、虐められるのを知っているのに、何故学校に行き続けたのですか?』


「それは……えっと…」
何と言えばいいのか、僕は戸惑っていた。

『あなたは、心の中では「生きたい」と思っているのでしょう?』

…彼女の言っていることは、当たっていた。


僕は…









死にたくない。

やっぱり…生きたい。


いつのまにか、僕は泣いていた。
とにかく、涙がとまらなかった。





『私も昔はそうだった。 だが、「ジサツ」ほどダセェ死に方はないだろ?』


急に彼女の口調が変わった。その声は、どこかで聞いたことのあるような、不思議な声だった。
彼女の姿はいままで1度も見たことの無いもの。しかし、声だけは知っている。なんだか変な感覚だ。


『…いや、なんでもない、さ。』


今、思ったことは口には出していない。どうして聞こえたの?
そして、何があったの?…聞いてくれそうにない。





…いつの間にか、彼女はいなくなっていた。


----------


あれから僕は、マフラーをせずに学校に行くようになった。

「お前、なんでマフラーしてねぇんだ?」

『これが僕だから。君達とは良い意味でちがうんだよ!』



「な、なんだよ急に…やっぱりお前は変だ!」

『別に、変でも構わないよ。』

どうして早く気づけなかったんだろう。僕は僕でいいんだ。他人と同じはつまらない。
これが僕の個性なんだ。たぶん。



学校生活はあっという間に過ぎていった。
もうすぐ卒業か…。


----------

「みんな、卒業おめでとう。」

僕は無事に卒業した。

その後ジルエットタウンの駅で、友達に出会った。

「ちぇん、お前はこれからどうするんだ?」

「僕は…旅に出るよ。僕のマジックを皆に見せてくる!」

「お前、大丈夫かぁぁ?この前のトランプのマジック、失敗してたr…」
「ん?何か言った?」
「いや、なんでもない。」

友達と別れた後、電車を待っていると今度は駅員に声をかけられた。

「あんたはどこに向かうんだい?」

「特に目的はありませんが、とりあえずアイビスシティまで。」

「そうか…アイビスシティは人気の街でな。引っ越す奴も多いぜ。

…ここらも直に人がいなくなっちまうんだな…」


駅員はそっと呟いた。

この町は思い出が詰まった大好きな場所。その町が皆の記憶から消える…?


「じ、じゃあ、僕がこの街の良さを世界中に伝えてきます!」

「なんだィ、お前さん、旅人か?」

「一応、そうです…」

「そうか…んじゃ、よろしくな。たまには帰って来いよ?」

「…任せてください。」

急に恥ずかしくなった。でも、僕はこの約束を守ってみせる。…自信、ないけどね。

「お、電車が来たぞ。ホラ、行ってきな。」

「はい。」

そう言って、僕は電車に乗った。



あの時の彼女や学校の皆、そしてあの駅員には感謝している。



「…ありがとう。」






電車の中で呟いた。

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