とある少年のハナシ
あるところに、まだ小さな少年がいた。
とても優しい子だった。
少年は、毎日をとても楽しくすごしていた。
ある日、少年は母に聞いた。
『どうしてお母さんは、毎日おびえているの?』
と。
母は答えた。
『私たちは、生きていてはならないモノだからよ。』
と。
またある日、少年はこんなことを耳にした。
『“エルフ”は、この世の最高の種族であり、最悪の種族である』
と。
少年は知っていた。
エルフ、というのは自分や、母や父を言うのだということを。
そして、またある日。
少年は聞いてしまった。
『自分達エルフが、狩られる』
と。
さらに別の日。
少年は遊びに出かけていた。
母の大好きなラズベリーを摘み取っていた。
『お母さん、喜んでくれるかな』
なんていいながら。
そして。
少年には、まだ早すぎた事だった。
『…ぇ…?』
家の中はぐちゃぐちゃに散らかされ、母や父の姿も見当たらず――――――
『あ!!?お母さ――』
“ソレ”は、ただのカタマリだった。
母の耳のようなカタマリと、母の手のようなカタマリと、母の足のようなカタマリが、辺りに散らばっていて―――
『…あ゛…?ちが…これは…お母さんじゃな…』
―自分達エルフが、狩られる―
ふと、その言葉を思い出した。
少年は、ジブンを捨てた。
本能のままに走った。
本能のままに飛びついた。
本能のままに蹴散らした。
本能のままに引き千切った。
本能のままにそれを―――――
『…ぅっ…!?っぅぅえぇぇええええっ…!!!!』
我に返った頃にはもう、遅かった。
辺りには無数のカタマリと、赤い水溜り。
口元には、カタマリと似たものと、赤いドロッとした水が…
『あ…』
少年には、理解不能だった。
自分のやったこと
自分のなかの本能
他にもたくさんあった。
そして少年はある1つのことを理解した。
最高の種族であり、最悪の種族の意味を。
だから少年は
二度と森から出ないと誓った。
けれど。
無理だった。
1度アレを味わってしまったから。
もう
少年は
あの頃の少年に戻ることは
できなかった。