プププ小戦記(後編)
「ここは…?」
扉の向こうの地面は、一面木の葉に覆われていた。誰もいない。皆は、敵が隠れているのではないかとあたりを見回してみたが、ときおり不吉な音の風が吹いてくる以外は、どこにも変わった様子がなかった。
「特に何もないみたいだね」
「そうだといいがな」
平然と答えながらも、メタナイトは何かの気配を感じ取っていた。
一行が再び歩き出した次の瞬間、背後からタヌキとキツネが飛びかかってきた!
「危ない!」
メタナイトはとっさに剣を振りかざした。敵は驚いて狙いを外し、近くのしげみに姿を消した。
再び現れた敵の姿を見て、カービィたちは驚愕した。敵の正体は、あのポンとコンだったのだ!
「ポン! それにコンじゃないか! どうして――」
「決まってるだろ! おいらたちもあのまぬけなデデデに嫌気が差したのさ!」
ポンとコンは口をそろえて言った。
「前からあいつのことは気に食わなかったんだ…。あんなまぬけに、大王の資格なんてない!」
「それに、もうじき新しい大王が決まるんだ…!」
メタナイトはその言葉を聞き逃さなかった。
(新しい大王だと? それは一体…?)
そのことについてメタナイトが言及しようとした時、ワドルディが叫んだ。
「だからって、大王様をさらうなんて…許せない!」
ワドルディは相手に向かっていこうとした。
それを見たポンは、素早く地面の木の葉を頭にのせた――と、次の瞬間、ポンは灰色の狼に姿を変えていた。コンも同じようにして木の葉をのせると、こちらは大きな虎に化けた。
姿を変えたポンとコンは、いとも簡単にワドルディを弾き飛ばすと、またしげみに隠れた。
メタナイトはふと気付いた。
(あいつらは頭に木の葉をのせてから姿を変えた。変身には木の葉が必要なのか?)
もしそうだとしたら、木の葉を奪ってしまえばいい!
そこで、メタナイトは作戦を実行することにした。
「二人とも離れろ。私に策略がある」
「分かりました」
こそこそと話をするカービィたちを見て、ポンはじれったそうに声を上げた。
「何をするんだか知らないが、こっちは変身できるんだ。勝てるはずないのさ」
「それはどうだかな」
メタナイトはマントを体に巻き付け、ぐっと踏ん張った。
「今だ、やっちまえ!」
ポンとコンが変身をしようとしたその時だった。
グオオォーッ!
メタナイトはマッハトルネイドで木の葉を巻き込み、空の彼方へ吹き飛ばした。
「しまった!」
「お前たちは木の葉がないと何もできない! 今のお前たちは、ただのタヌキとキツネだ! さぁ、かかってくるがいい!」
剣を構えたメタナイトを見て、敵はあたふたと逃げ出した。
「くっそ〜、覚えてろ!」
二人は煙とともに消えた。
カービィはホッと安堵した。
「ありがとう、メタナイト」
「ああ」
「さて、大王様はどこにいるのやらさっぱり」
三人は周囲をくまなく歩いてみたが、何も発見できなかった。敵はあの二人だけだったと見える。
「あーあ…これで振り出しに戻っちゃったね」
「確かにな…とりあえず先に行くか」
今度はメタナイトが先頭に立って歩き出した。森の一番奥まで行くと、そこには一つの扉があった。先ほどの三つの扉とは違い、何も描かれていない粗末なものだった。
「まさかとは思うけど、ここに大王様が…?」
「それは分からない。とりあえず行ってみるか」
*
扉の先には、雑魚敵の大群がいた。どれも反逆者のようだ――こちらを敵意のこもった目でにらみつけている。
「ふふふ…残念だったな。ここははずれだ! デデデはここにはいないよ」
「何だと…!」
メタナイトは剣を握った。
「メタナイト、戦わないで逃げよう! ここは一旦逃げて、さっき入らなかった赤か青の扉のところまで戻ろうよ!」
「そうはさせるか! みんな、突撃!」
雑魚敵の集団が襲ってきた!
カービィたちは、それぞれバラバラの方向に逃げた。追っ手を振り切り、三人は先ほどの扉の所まで走った。
「これからどうする?」
「ここは三手に分かれよう」
メタナイトは提案した。
しかし、カービィとワドルディは反対した。
「あの大群を見なかったのか? 三人だけでは、とてもどうにかできるものではない! 仮になんとかなったとしてもだ、これで終わるとは思えない。この先さらに強い敵がいる可能性もある…。その時に傷だらけだったらどうするんだ!」
メタナイトの剣幕に圧倒され、二人は口をつぐんだ。
「…カービィは赤の扉に行くんだ。私は青の扉に行くから、ワドルディ、お前はバードンの様子を見てこい」
カービィは大きくうなずいた。ところが、ワドルディは不安げに目を伏せている。
「本当に大丈夫…?」
「大丈夫だよ! 大王は絶対助ける!」
力強いカービィの返事に、ワドルディも自信を取り戻した。
「よし、またあとで会おう!」
そう誓い合って、三人はバラバラの方向に逃げた。
しばらくして反逆者たちが扉の入口に辿り着いたが、すでにカービィたちの姿はなかった。
「くっ…逃げ足が速い奴らめ…。だが、まだ二つ部屋があるから心配はいらんな。よし、赤の扉に行く者と青の扉に行く者の二手に分かれ、奴らを挟み撃ちにするんだ!」
*
その頃、バードンの様子を見にいったワドルディは――。
「バードンは大丈夫かな…」
ワドルディは通路から顔だけ少し出して部屋を覗いた。そこにはバードンの姿はなく、大勢の敵が目を回して倒れていた。
(良かった…きっとうまくいったんだ…)
恐る恐る敵の一人に近づいてみた。完全に気を失っている。これなら、当分の間は大丈夫そうだ。
ワドルディは部屋をあとにし、カービィたちのもとへと戻ろうとした。
その時!
ドカッ!
背後から何者かに頭を殴られた!
ワドルディは何も抵抗できないまま、その場に崩れ落ちた。
*
その頃、赤の扉担当のカービィは途方に暮れていた。扉の向こうは目も開けられないほどまぶしく、また、異常なほど暑かったのである。最初は意気揚々としていたカービィだったが、この悪条件で次第に体力と気力を奪われつつあった。少し歩いたところで、カービィはバテて倒れてしまった。
「うぅ…もうだめー」
その様子を上から見下ろしている者がいた。太陽の化身――ミスター・ブライトだ。
(ふっふっふ…さすがのカービィも俺の熱さとまぶしさには耐えられないだろう。このままバテてろ!)
*
一方、メタナイトは青の扉で苦戦していた。青の扉の向こうでは、異常な量の雨が降っていたのだ。
(くそっ、扉に描かれていた滝が表していたものは、これだったのか…! つまり、「滝のように降る雨」ということか…!)
激しい雨で視界はゼロに等しく、何より雨粒が体に当たって痛い。まるで雨ではなく大量の針が降っているようだった。
メタナイトは知らなかったが、この雨を降らせているのはクラッコだった。
(ふふふ…苦戦しているな…。そろそろとどめを差しにいくか!)
クラッコはありったけの力をためると、激しい稲妻をメタナイトに向かって繰り出した!
*
そして、こちらはワドルディ。ワドルディは地下牢に閉じ込められていた。
「誰か! 誰か助けてー!」
大声で助けを呼ぶが、答える者はいない。
「誰かー!」
ワドルディの必死の声も、冷たい地下牢の壁にむなしく消えていった。
(もう駄目か…このまま誰も助けに来なかったら、僕は――)
その時!
「大丈夫か、ワドルディ?」
「チリー!」
チリーが鍵を持って助けにきた!
「今開けるよ!」
ガチャ
「助かったよ、ありがとう! でも、どうしてここに?」
「みんなが大王様を助けに行くらしいという噂を耳にしてね。それに、大王様がさらわれたのは僕のせいでもあるし…。ただ休んでいるだけの自分がどうしても許せなくて。だから、ダイナブレイドに乗せてもらってここに来たんだ」
「でも、怪我は大丈夫なの…?」
「完治はしてないけど、戦えないほどでもない。大丈夫さ。看守たちは僕の力でもどうにかなったしね。しかし…」
「どうしたの?」
「基地に入った時、僕は見てしまったんだ。なんと…」
チリーは一旦言葉を切り、一呼吸おくと、思いがけない言葉を発した。
「…バードンが君を攻撃してたんだ」
「ええっ!」
「バードンは君を後ろから殴って攻撃した。そのあと、気を失った君をここまで運んで、牢屋に閉じ込めたんだ」
「そんなの、何かの間違いだよ! だってバードンは――」
チリーは悲しそうに首を振った。
「僕も、それが間違いだと信じたいけど…バードンは人が変わったみたいに凶暴な目をしてたよ…」
その言葉で、ワドルディは何かをひらめいた。
「人が変わったみたいって…もしかして、バードンは誰かに操られてるとか? そうとしか考えられないよ! その他に考えられることは――」
「――最初から裏切るつもりだった…とか」
チリーの言葉が残酷な響きを放った。
そんなことは信じたくなかった。でも、もしそうだとしたら、恐ろしいことになる!
ワドルディはチリーに向かってこう言った。
「とにかく急いでカービィたちにこのことを知らせよう」
「うん」
二人がカービィたちのところへ行こうとしたその時!
チリーが何者かにつかまれた!
「お前は…バグジー!」
「このままここを通すわけにはいくかよ!」
「ぐわっ!」
チリーは吹っ飛ばされた。
「チリー!」
倒れたチリーのもとへ、すかさず駆け寄るワドルディ。その背中に、バグジーは怒鳴り声を浴びせた。
「お前らは甘いんだよ! そうやって助け合ってる姿を見るだけでへどが出るぜ! …まぁ、この基地に侵入してきたのには俺も驚いた。だがな、お前らはカービィやメタナイトがいないと何もできないただの雑魚キャラなんだよ! まっ、どうせカービィもメタナイトも、そしてデデデもここで死ぬんだ。さぁ、お前らも終わりだ!」
その時、バグジーの後ろの床に、羽根のカッターが飛んできて刺さった。それを見て、ワドルディとチリーは声をそろえて叫んだ。
「バードン!」
バグジーの後ろからさっそうと現れたのは、あのバードンだった。バードンは翼を大きく広げて迫ってくる。
その様子を見ても、バグジーは少しも驚かなかった。バードンに向かって笑いかけると、次の瞬間、信じられないことを言った。
「おう、バードン。見ろ! あいつら俺に刃向かってきやがったんだ。ここはお前の出番じゃないのか? あいつらを始末しろ!」
その言葉に答えるかのように、バードンは笑い返した。そして、ワドルディとチリーに勢いよく突進した!
ふいを突かれた二人は、そのまま後ろに弾き飛ばされ、基地の壁に激突した。その隙に、バグジーは去っていった。
バードンはまだ動けない二人の前に立つと、こう言い放った。
「残念だったな。俺はここのスパイだったのさ」
「そ、そんな…!」
「うわさ通りだな。お前たちは誰に対しても甘い。デデデを救うだって? ふん、うぬぼれるな! お前らなど、たかが雑魚キャラのうちの一人。そんなことができるわけがない!」
(お前だって雑魚キャラじゃないのか?)
そう言い返したいのを抑え、ワドルディたちは黙っていた。
「言っておくが、仲間のところに戻っても無駄だぞ」
「…え?」
「カービィもメタナイトも、もうやられた」
「何だって!」
「あそこに三つ扉があっただろう。なぜ三つあるか…それぞれの弱点を突くためだ。赤の扉は環境の苦しみ、緑の扉は力でねじ伏せる、青の扉は能力を封じる。緑の扉はフェイクだ。緑の扉には視覚的な仕掛けがしてあり、最初に緑の扉に入るよう仕掛けている。案の定緑の扉に入ったという情報が来た。力でねじ伏せるのは失敗に終わったようだが…しかし! 緑の扉は時間稼ぎにすぎない。お前らが緑の扉で手間取っている内に、この基地の全員が武装体制に入った! 赤の扉と青の扉も凶悪なトラップが仕掛けてある。今頃はあいつらもやられていることだろう。はっはっは!」
「そ、そんな…」
「なぜお前らはそんなことをするんだ! 大王様にそこまで何の不満がある?」
「さあな。だが一つ言っておこう。あいつは俺たちの存在をコケにするような行動を取ったのだ!」
「しかし何もここまで…!」
「ふん、お前らには何も分からないだろうな。なぜなら――」
「おいバードン、そろそろ時間だ!」
「おっと、そうだったな。こんなところで時間を食っている場合ではなかった。そろそろ俺たちも行かねば」
ワドルディとチリーは再び牢屋に押し込まれ、鍵を閉められてしまった。
「ああ、最後にもう一つ。赤の扉と青の扉だって時間稼ぎに過ぎないんだぜ」
「なに! 何のための時間稼ぎだ!」
「この基地を爆破する時間を確保するためさ」
「な…何だって!」
「デデデをさらえば、お前らがついてくることは決まっている。だから、この基地には様々な仕掛けを施したのさ。さーて、時間だ。あのまぬけなデデデもろとも消え失せな!」
高らかな笑い声を響かせながら、バードンは去った。
暗い地下牢には、ワドルディとチリーのみが残された。
(バードンが敵だったなんて…)
ワドルディは信じられなかった。仲間だと思っていた相手が、最初から敵だったなんて…!
「ねえ、チリー」
「…ん?」
「これからどうしよう…?」
「なんとかしてここを出なきゃな…」
「でも、どうやって? 鍵もないのに? こんなに頑丈な檻、僕たちには壊せないよ!」
「そうだな…」
チリーはあいまいな言葉を返した。
「ねえ、聞いてるの? 早くしないと基地が爆破されちゃうよ! 僕らだけじゃなくて、大王様も、カービィも、メタナイトも、みんな死んじゃうんだよ? 分かってるの?」
「分かってるよ!」
「分かってない!」
「いいや、分かってないのはお前のほうだ! お前、自分で言ったじゃないか。鍵もないし、この檻を壊すのは無理だって。鍵を探すか檻を壊すかしなきゃ、永遠に出られないだろ!」
そこまで言って、チリーはふと気付いた。
「いや、ここから出られるぞ!」
「えっ?」
「僕が冷気で鍵穴に合ったつららを作れば、それを使って出られる!」
「なるほど! 鍵穴さえ攻略できれば簡単に出られるね!」
「しかし…ここは暗いからすぐにはできないかもな…」
「でもそれしか方法がないし…」
「うん、まずはやってみるか!」
チリーはつららを発生させた。
「よし!」
チリーはできたばかりのつららを手に取り、鍵穴に差し込み始めた。
*
「うーん…どうしても見えない…。奥のほうが何回やっても合わないんだよなー」
「そんな…早くしないと爆発しちゃうよ!」
「…そうだ! いいこと考えた!」
チリーは雪を発生させて、それを鍵穴につめた。そして先っぽだけを取っ手状に凍らせて少しずつ引いた。
すると…
「よし! 鍵穴の形に変形したぞ!」
変形した部分も凍らせた。
「これで鍵の完成だ!」
「すごいよチリー!」
ガチャ
見事に二人は牢屋から出ることに成功した。
「よし、カービィたちのもとへ急ぐぞ!」
チリーは地面を凍らせた。その上を滑るようにして、二人は進んだ。
*
その頃、赤の扉のカービィは…
「だめだ…動けない。食べ物か飲み物があれば…」
「カービィがいたぞ!」
カービィは追っ手に追いつかれてしまった。暑さと空腹でかすんだ目をこすりこすり、カービィは後ろを振り返った。
「あ、あれは…」
カービィの目には、おいしそうなケーキとジュースが歩いてくるのが映っていた。あまりの空腹で、カービィは敵を食べ物と間違えてしまっていた。
(あの砂糖のかかったケーキにかぶりつきたい…。それにあのジュース! あんなにコップに露が付いている。まるで、さっきまで冷蔵庫の中にあったみたいだ…)
カービィは口を大きく開けた。そこで敵はカービィの異変に気付いた。
「うわぁ! 逃げろー!」
時すでに遅し。
次の瞬間、カービィは吸い込みをしていた。
パクッ、ゴクン!
カービィは敵を飲み込んだ。
「ん…? なんか変な味…でもいいや。やっと元気が出てきたぞー!」
ブライトが攻撃する暇もなく、カービィは猛スピードで部屋を駆け抜けていった。
「うおおお! 待てええええ! 行かせえええん!」
ブライトが追いかけてきた!
…が、少し遅かった。
カービィは出口の扉を閉め、ブライトはその扉に頭を打って気絶した。
「メタナイトのことが心配だけど…メタナイトは強いし大丈夫だろうな。ここはデデデ大王を早く助けにいこう!」
カービィは基地の奥へと進んでいった。
*
地下牢から無事逃げおおせたチリーとワドルディは、あの三つの扉の前にいた。
「どれに行くんだ?」
「ええと、緑の扉ははずれだったんだ。んで、カービィは赤の扉、メタナイトは青の扉に進んだんだ」
「なるほど。しかしどっちに行けば…」
しばしの沈黙のあと、ふと思い付いたようにワドルディが言った。
「この扉に描いてあるものが中にそのままあるのだとしたら、チリーは赤の扉に入るのは危険だよ! もしかしたら、中はすごく暑いのかもしれない」
赤の扉の太陽の絵を指さす。
「僕が赤の扉に入るから、チリーは青の扉をお願い」
「分かった。じゃあ、またしばらくしたらここで落ち合おう」
二人はそれぞれ扉の中に姿を消した。
*
「うわ…ものすごく暑い…。やっぱりチリーがこっちじゃなくて正解だったな…」
誰にともなく独り言を呟きながら、ワドルディは部屋の奥に進んだ。
「おかしいな…敵の気配がない。カービィはもうここを突破したのかな?」
部屋の一番つきあたりらしきところまで行くと、ワドルディは出口の扉を発見した。傍ではミスター・ブライトが目を回して倒れている。
「なるほど。やっぱりカービィはここをクリアしたんだ。よし、ここはこれくらいにして、待ち合わせ場所まで戻ろう」
ブライトを起こさないよう注意しながら、ワドルディは部屋の入口まで戻った。
*
一方、チリーはメタナイトと合流し、クラッコを撃破したところだった。敵を倒すと厄介な豪雨も止み、一気に探索しやすくなった。
そのまま出口まで突っ切ろうとするメタナイトに、チリーは事情を話し、彼とともに部屋の入口に戻った。
*
「結局カービィには会えなかったね」
「きっと、カービィは先に進んだんだよ。戻ってこないところを見ると、またもやこの扉ははずれだったのか、道に迷っているのか、それとも敵につかまったのか…」
そこまで言って、ワドルディははっとした。
「そうだ! メタナイト、早くここから出ないと危ないんだ! さっきこの基地の敵が、ここを爆破するって!」
「なにぃ! うむ…悩んでいる時間はなさそうだ。よし、ワドルディ、チリー、青の扉の奥に出口らしき扉があった。そこから私たちも先へ進むぞ!」
「はい!」
*
カービィは、らせん階段を一歩一歩下っていた。一体どれほどの距離を下ってきたのだろう? 見上げると、階段の入口は小さな光の点となって遥か彼方に浮かんでいた。
下には終わりの見えない階段。底のほうは暗闇に溶けていて、どうなっているのか全く判断できない。
それでも一番下まで到着。目の前に、いかにも怪しげな一つの扉が姿を現した。
カービィは用心に用心を重ね、ごくゆっくりとその扉を開いた…。
「…!」
扉の向こうは真っ暗。その真っ暗闇の中から、不吉な笑い声を響かせ、何者かが近付いてくる。
「卑怯だぞ! 姿を見せろ!」
「ふん、また貴様か。ことごとく我の作戦を邪魔しおって…!」
目の前の闇だけがうっすらと晴れ、敵がその全貌を現した。
「お…お前は…! ダークマター!」
「久しぶりだな、カービィ。どうやら貴様とは腐れ縁でつながっているらしい…」
ダークマターは闇に手をかざすと、虚空から漆黒の剣を抜き取り、構えた。
「…だが、それも今日までだ。この忌まわしい縁、今ここで断ち切ってくれるわ!」
敵は剣を構えたまま勢いよく突進してきた!
準備が整っていなかったカービィは、派手に突き飛ばされた。
「ふん。いいザマだな、星の戦士よ。あれほどの猛攻をかいくぐってくるとは…と、少しは期待していたものだが…。どうやら我の期待はずれに終わったようだな」
素手で向かっていこうとしたカービィは、またもやダークマターに弾き飛ばされた。
「諦めろ! 貴様は所詮、仲間がいないと何もできない腰抜けなのだ! さぁ、おとなしく我に従え! 我を新しい王とあがめよ! そして、この堕落しきったプププランドを共に治めるのだ!」
ダークマターがカービィに剣を突きたてようとしたその瞬間!
バァン!
勢いよく部屋の扉が開いた!
「カービィ!」
「私たちも加勢するぞ!」
「ワドルディ! メタナイト! それにチリーも!」
「ええい、邪魔だ邪魔だぁ! ここでまとめて処分してくれるわぁ!」
ダークマターは、怪しげなスイッチを手に取り、押した。
ドガアアアアン!
轟音が鳴り響き、地面が大きく揺れた。
「な、何だ!」
『ケイコク、ケイコク。アトゴフンデ、コノキチハバクハツシマス。キチナイニノコッテイルカタハ、スミヤカニヒナンシテクダサイ』
「なにぃっ!」
「ハッハッハッハ! あと五分で基地から出られるはずがない! 貴様らは我らやこの基地とともに吹き飛ばされるのだ! ハッハッハッハッハ!」
ダークマターは部屋の奥の扉を開け、向こうに横たわっているものを示した。
「ほら、貴様らが捜していた大王だ。もう用済みだからな…貴様らにくれてやる!」
『アトヨンプンデ、コノキチハバクハツシマス。スミヤカニヒナンシテクダサイ』
「カービィ、早く!」
「分かった!」
カービィたちはデデデ大王を抱え、らせん階段を駆け上がっていった。そうしている間にも、無情にも時間は刻々と過ぎていく。
『アトサンプンデ、コノキチハバクハツシマス』
アナウンスを聞いて、ワドルディは泣き顔になった。
「あぁ、どうしよう!」
「走るしかないだろ! おお、やっと階段を登りきったぞ! …おいカービィ、このままでは間に合わない。助けを呼んでくるんだ!」
「うん、分かった!」
カービィは基地の出口へまっしぐらに駆けていく。残された三人は、気絶したまま動かないデデデを抱え、行けるところまで進むことを決心した。
制限時間が残り二分になった頃、基地が激しく揺れた。火薬の香りがしてくる。爆弾の準備が整ったようだ。この状態では、制限時間が残っていても爆発するかもしれない。いつそうなってもおかしくはない!
しかし、メタナイトたちの体力も限界だった。デデデのような巨体を運んでこれ以上走ることは無理そうだった。
「みんな、最後まで諦めるな! 歩いてでも、這ってでもいいから、少しでも出口のほうに進むんだ!」
アナウンスが残り一分を告げた。もう駄目だ! 誰もがそう思い始めたその瞬間!
ギャオオーン!
凄まじい雄叫びがしたかと思うと、基地の天井が崩れ落ちた! 落ちてくる瓦礫を必死に避け、メタナイトたちはもうもうと立ち上る煙に目をこらす。ぽっかりと覗いた青空に浮かび上がったあのシルエットは…!
「ダイナブレイド!」
そう。カービィはあの巨鳥を呼んできたのだ。ダイナブレイドの背に乗ったカービィは、仲間たちのほうに向かって叫んだ。
「みんな、つかまって!」
「言われなくても!」
全員が乗り込み、巨鳥の足が地を離れたそのすぐ後ろで、今まさに基地が火柱を上げながら崩れ去っていった。
*
こうして、プププランドの危機はまたしてもカービィたちの活躍により撃退された。
反乱を起こした住民たちは、ほとんどがダークマターに操られていただけだった。その住民たちは、基地が爆発する寸前に黒い雲の憑依が解け、奇跡的に全員生還したのであった。
カービィも、ワドルディも、デデデ大王も。それから、メタナイトも、チリーも、バードンも。皆、今では事件の前と変わらない日々を過ごしている。
あきれかえるほどの平和な日々を。
〜完〜