第14話:だいこうじょう(ぜんぺん)
《BGM:『3』砂ステージ(3-6)》
「ったく、お前ら一体どこふらふらしてたんだよ?」待ちくたびれたような、苛立った声が聞こえる。
「オレも何が何なのかよくわからん。だが...侵略者の目的は暴いた!来い」茶色の影が柱の後ろから現れ、振り向かずにかばんたちを連れていった。まだピンク玉の存在には、気付いていない。
「ねぇツチノコ、こんな近くまで行っていいの?」
「野性の勘でわかるだろ!この辺の警備はザルなんだよ、ザル!」
と、ツチノコは立ち止まり、振り返って建物を指差した。
「これはな...工場、ってんだ。かつて人間がもの作りの為に使っていた施設、の一種だな。だから初めは、奴らが外から来た人間の生き残りだって仮説を立てた...だがそうとも言えないようだ!」
それから彼女はパイプの一部に指先を動かした。「ここ...よく見てみろ」
「うーん、何が...あっ!」
パイプの透明な部分に、虹色の粒子が流れているのが見える。
「サンドスターだ!」
「その通り。奴らの目的、それは...パーク中のサンドスターを根こそぎ奪うことだ!...これが何を意味するか、解るな?」
「一刻も早くあいつらを止めないと、サンドスターがなくなって...みんな、フレンズ化が解けて元には...」
「わかった!ならこのこうじょう、今すぐぶっこわさないと!」
「ああ。だからオレは、お前らの助けを借りる前提で破壊工作を計k...さっきの、誰だ!?」
ツチノコはようやく、かばんとサーバルが他に誰か連れていることに気付いた。
「ななな何でお前ら...セルリアンを連れてるんだよ!キクシャー!」
「あ、これ...セルリアンじゃなくて、仲間です!」
カービィはぽてぽてとツチノコに歩み寄り、アイスの冠を外して挨拶をした。
「ぼくはカービィ!はじめまして、ツチノコ!」
「っ、馴れ馴れしくオレの名前を...まァいい。かばん、こいつは戦力になるか?」
「は、はい!カービィさん、ものを吸い込んで、それをそのまま能力にできるんです」
「なるほど...ってますますセルリアンじゃねぇか!」
「...とにかく、だ。侵入経路はあそこのダクトから。ここからでも中にザコがウヨウヨいるのが分かるから、出来る限り見つからず...最低限の戦闘で心臓部まで進むぞ」
「よし!ならすぐ行こう!」
「だからっ、もっと警備が手薄になるまで待つんだっての!」
しかし、サーバルの返事は意外なものだった。
「だって!あいつらたくさん、こっちに向かってくる音が聞こえるよ!」
「嘘だろ...いや、少なく見積もっても20体いる!...仕方ねぇ、潜入を敢行するぞ!」
四人は素早く、排気口の中に飛び込んだ。
「ん?なんかガタッて聞こえなかったか?」やって来たワーカーズの一人が呟いた。
《BGM:『タチカビSR』潜入!ガラクタ工場》
「...でもって、なんでお前まで来てるんだよ」
「サーバルとかばんちゃんをたすけるって、約束したんだもん!」
小さなカービィは、ほふく前進する三人の後を、ぽにょぽにょとついていく。
「ふん。言っとくがオレはまだお前のコト認めてないからな」
「あの...ツチノコさん...」
「あァ?好き好んでセルリアンを連れ歩くやつがいるかよ?」
「じゃなくて、前...」
「っきぁぁあぁっ!?」排気口の先に、垂直な穴がぽっかり開いていた。ツチノコはそれに気付かず、文字通りまっ逆さまに落ちてしまった。
「助けなきゃ!」
残された三人も、枝分かれしたパイプに飛び込む。勿論かばんは、カービィの力を借りて。
「何ここ...変なにおい...」その先はダストシュートだった。
「いちち...そうか、あれは焼却炉からのダクトだったか...」
「あっ!かべが動いてる!」
狭い空間の中、左右からプレス機が迫ってくる。
「ここから早く出ないと!...うぅ〜っ、開かない!」
壁に1つの扉があったが、四人がかりで引っ張っても開かないほど頑丈に施錠しているようだ。
「おいっ、ピンク玉!お前なんとか出来ないのか?!」
「カービィだってば!...うーん...」
「カービィさん!これ、使ってください!」
カービィはかばんのリュックサックの中を探った。
「うん!ええと、“クリーン”...じゃない、“パラソル”でもない...」
「!?なんでヒトの道具がたくさん...勿体ねぇじゃねぇか!」「今更!?」
と、ツチノコの目に、あるものが映る。
「...いや、待てよ...カービィ、賭けに出るか?」
「うん...でられるなら!」
「よし、これ吸い込め!」
「......オッケー!」
それこそ――あの曲がったスプーンだった。
そのとき、カービィの頭に、青い帽子が現れた。両の手には、不思議な光。
「よっしゃ、当たりだ!それで...なんとか出来るだろ!」
「ええーっ!?」
「早くして...カービィ!」
こんな能力、使ったことなんてない。カービィには、あの扉を凝視するしかなかった。しかし、それこそがツチノコの狙いだ。
「あれ...うそ!壁のむこうがみえる!」
「上出来だ!じゃあ...そこにスイッチか...何かないか!?」
「あるけど...触れないよ!“ビーム”か“スパーク”がないと...」
「ダメ元で...やってみろ!...くっ、もう...抑え..られ...」
「うぅ...ひらけ〜っ、ゴマ!」カービィが両手を突きだしたその瞬間――手の光が壁をすり抜けて飛んでいき――スイッチが作動した。
プレス機は四人が動けなくなる寸前で止まり、扉はロックが解除される。
「危なかったね...!」
「ツチノコさん、どうしてあれが使えるって解ったんですか?」
「『超能力』、だ。ヒトは昔、スプーンを曲げたり、瞬間移動したりするような、すげぇ能力を想像していたらしい!ひょっとしたら、アレを吸い込めば、カービィもそれらを使えるかと...」
「ばぁぁ〜っ!」「ぎぁあぁっ!?」説明をしていたツチノコを、カービィが後ろから驚かした。いつの間にか、テレポートまで会得していたらしい。
「カービィすごーい!」
「お前...いい加減にしろ、ここもう敵陣のど真ん中なんだぞ!」
それからの道のりはそう険しいものではなかった。
ツチノコはピット器官で見張りの位置を知らせ、カービィが透視でナビゲートする。
「次、丁字路の左に曲がると先に5体いるぞ」
「オッケー!ええと、みぎ、みぎ、まっすぐ、ひだり、かな!」
やがて辿り着いたのは、歯車の波がうごめく吹き抜け。橋はかかっていない。
「落ちたら、ひとたまりもないよ...」
「カービィ!ほんとにこっちで良かったのか!?」
「だいじょーぶ!ぼくに考えがあるよ!それっ!」
カービィが両手を振り上げると、四人の体はたちまち緑色の光に包まれる。そのまま浮き上がり、対岸まで緩やかに飛んで着地した。
「何これ何これ!すごーい!」
「お前、いつの間にんなコトまで...」
しかし――その先、廊下の右手には信じられない光景があった。
あの「ワーカーズ」達が、ところ狭しと並び、ベルトコンベアで奥へ流れていく。
「あいつら...作られてるの...?」
「通りでたくさんいるワケだ...」
「あ!このさきに、おっきな装置があるよ!あれ壊せば、とまるんじゃないかな?」
「早く止めなきゃ!」
四人は再び奥へと駆け出した。敵の大きな野望に、少しでも歯止めをかけるために。