第12話:り:こうざん
スージーは直帰すると見せかけ、自身のアイス工場のすぐ近くにいた。
そこには、半機械化され、気を失っているゲンジュウ民がひとり。
「...ここは、もういいわ」
彼女はコントローラをゲンジュウ民に向け、“解除”のボタンを押した。
――あいつらの侵入を許した、ってことは、カンパニーには相応しくない戦力ということよ。それに...あんたが一人元に戻ったって何も変わらないから...
三人の気配を感じて、スージーは本社へと戻った。
「ほんとに悪いやつは...あのなかにいるんだよね」
三人は工場の外から、あの巨大な銀色の球体を見据えていた。
「あれ、わたし達が前行った港のほうだね!」
「『もうひとつの目的』って...何なんだろう...」
「はやくロボボとトレーラーにのって、あそこに行こう!」
とは言ったものの、さすがのカービィも戦いで疲れていた。冷気をたくさん放ったせいか、喉が渇いている。
「はぁ...何かのみたいな...」
「それなら、あの山の上にカフェがあるわよ」突然の後ろからの声に、三人は思わず身構えた。
そこにいたのは――スージーでもワーカーズでもなく――いつの間にか機械化が解けている、トキだった。
「トキ〜っ!元に戻ったんだね!」サーバルは感極まって、トキに抱き付いた。
「...銀色で小さな、ボスみたいなのに撃たれてから、記憶がないの。何があったのかしら」
「トキさん...もしかして、あいつらに操られてたんじゃないですか?」
「...?じゃあ、あなた達に何かひどいこと、してたのかも...」
「大丈夫!気にしてないよ!」
「おわびに、一曲歌ってあげる」
「あー...大丈夫だってば!それより早く、カフェに行こうよ!」
「そう。でも...三人も運ぶとなるとね...」
「はーい!ぼく、空をとべるよ!」カービィが手を挙げた。
「飛ぶって...カービィさん、どうやって?」
「見ててね!」カービィは空気をたくさん吸い込み、吐き出さずに頬張ったまま両手を上下させる。彼の体は、ふわふわと浮き上がった。
「すっごーい!カービィ、ほんとに飛んでるー!」
「むふ...これでわたしがかばんを抱えて、サーバルがカービィに掴まればいいわね」
「じゃあ、行きましょう!」
《BGM:『wii』空のワルツ》
ジャパリカフェの庭には、いくつもの見たことない乗り物があった。
「あいつらの乗り物かな...」
「ぼくこれ知ってる!空をとぶのりものだよ!」
その時、カービィとワーカーズの視線が合った。
「あ...えーと、その...」四人は目を泳がせたが、返ってきたのは案外親しげな言葉だ。
「ゲンジュウ民の方々?君たちも、カフェのお客さん?」
「あっ、はい、僕たち開拓の前からの常連客なんです」
「奇遇だね、俺もここに立ち寄ろうとしてたんだよ」
まさか...と思ったかばんがカフェの中を覗いてみると、そこは小さな社員たちでごった返していた。
(むやみに敵に回さなければ、大丈夫なのかな...)
「うわ、超混んでる...ちょっと待つかもな」
中に入っていく四人に、そのワーカーズは何となくついて行った。
「あらぁ、いらっしゃ〜い!ごめんねぇ、今満席なのぉ」
カフェの店主(ということになっている)、アルパカ・スリは、満面の笑みで四人を迎えた。
「あのー!相席でよければ、ここ空いてますよ!」座っていたワーカーズの一人が、手を挙げる。
「お前またゲンジュウ民を口説くつもりかよ!?しかも見ろよ...先客がいるだろ」
「なっ!イヤ、これはな...」ワーカーズが側のカービィたち共々戸惑うと、どっと笑いが起こった。
一行は雰囲気についていけないまま、空席に座った。
「あるぇ、そちらのかわいい、ピンクのお客さんはだぁれぇ〜?」
「カービィだよー!」
「来てくれて有り難うねぇ〜!ねぇ何のむぅ?」
「んー、じゃあこの『紅茶(すいこみ力アップ)』をおねがいしようかな!」
「いいよぉ〜っ!」
(すいこみ力アップ!?そんな紅茶まであんのか!?)
(おいおい、ここは異星の地だぜ?)
「そうだ、君たちどこで働いてるの?」ワーカーズの一人が、かばんとサーバルに尋ねる。カービィはそのとなりで、作った小さな氷を紅茶に入れ、冷まそうとしている。
「え?わたし達は働いてn――」言いかけたサーバルの口を、かばんが咄嗟に塞いだ。
「ふもとのアイス工場ですっ!」
「...いーなー!あそこアイス食べ放題なんだろ!?」
「でもさ、あそこの監督やってる秘書のやつ、おっかないってウワサだぜ?」
「かばんちゃん!何するの!?」
(サーバルちゃん、お願いだから目立つこと言わないで!向こう、僕たちがあのゲンジュウ民だってことに気づいてないから!)かばんはそっと耳打ちする。
(はーい...)
「あ、そーいや、スティールストリートの方で危険ゲンジュウ民に認定された奴がいるって?」
ぎくり。
「それマジ?俺らのほうまだ情報来てない」
「どんな連中なんだろ...」
「案外、アルパカさんとかこいつらだったりしてな!」
ぎくぎくっ。
「そりゃないだろ〜!」
再びワーカーズたちの間で、どっと笑いが起こる。つられて笑うカービィやサーバルの側で、一人だけがヒヤヒヤしていたのは言うまでもない。
「じゃあ一曲...ここの皆に歌ってあげようかしら」
それは、しばしの談笑のあとに起こった。
「...え?」
「ほう、ゲンジュウ民の歌を聴いてみるのも悪くないな!」
「うたう!?ぼくもうたう〜っ!」カービィも跳びはねる。
「おー!デュエットか!」
「あなたも...歌うの、好きなの?」
「すきすき!大好き!」
「じゃあ、一緒に...」
「あのぉ、トキちゃん、今日はいつもと違う紅茶だったんだけどぉ...」
地獄のデュエットが――幕を上げてしまった。
「わたーしはートキー、ナカーマをー探してーるぅー」
「ぼくぅぅはぁぁカービィィィィ、トマトォォ大いぃ好きぃぃぃっ!!」
かたや調子外れで奇妙な音程、かたやただの騒音。最後まで聴いていられる方が不思議だ。
二人が歌い終わったあと、彼らの目に写ったのはテーブルに突っ伏し、椅子から転げ落ち、泡を吹いて気絶している友達や敵の姿だった。
「あら...皆どうしたのかしら?かばんまで...」
「きっとぼくたちの歌がすごすぎて、きぜつしちゃったんだよ!」勿論そうではない。
「私達、もしかして最高の歌手同士かもね」
「またいつか、一緒にうたおうね!」
「ええ!」
カービィとトキはお互いの手をがしりと繋いだ。
「いやぁ、トキちゃんもカービィちゃんもすごい歌ねぇ〜!...カービィちゃん、かばんちゃんとあいつらをやっつけるんでしょ?頑張ってねぇ〜!」
「うん!」
「じゃあ...のこりのお茶を飲んで、帰りましょ」
「あーたのしかった!のどもうるおったよ!」
二人はそれぞれかばんとサーバルを抱え、ふわりと下山していった。
「...実に不思議ね!数十人のワーカーズがあの山の頂上に登ったきり、3時間たっても一人も下りてこないなんて」専用機の中で、スージーは苛立っていた。
「MG-1029、応答しなさい!何が起きているの!?」
「こち..ら...MG-1029...」息も絶え絶えな声が、通信装置から聞こえてきた。
「な...何が起こったか説明しなさい!」
「紅白の...服装...ゲンジュウ民...ピンクのスト..レンジャー...歌唱力...危険度Vに...該..当....」それきり、通信の音声は途絶えた。
「!?応答せよ、MG-1029!...訳が解らないわ。もういい、大工場やメインラボの警備の強化と、例の『アレ』の成分調査をしないと...」