あしかのらいぶらりぃ
はじめにお読み下さいこの小説を修正する最近のコメント・評価キーワード検索
設定メインページに戻るサイトトップに戻る
大 中 小
執筆者: ヒガシノ/投稿日時: 2024/02/18(日) 23:48:21
投稿者コメント:
実は、本日2/18は、家倉蒼太さんの誕生日です!
2年前の今日、「家倉蒼太」というキャラ(の原型)ができたのです!!おめでとう!!!
…ということで実はこの「あなたを追いかけたら、」という話はだいぶ前から考えてたんですよね。2年もほっといてましたが、やっと形にできてとても嬉しく思います。
12.ふたつの色
鈴蘭の少女がくれた花束は、花瓶に生けて、玄関の近くにある棚の上に置いた。
今まで何も置かれていなかった白くて小さな棚は、まるで花瓶を置くためだけに存在しているのかと錯覚するほど、花をの美しさを引き立てるのにピッタリだった。
私は、出かける時も、帰ってきた時も、玄関に立つたびにこの花を一瞬眺めては、鈴のことを思い出して、和やかな気持ちになる。
しかし蒼太は違った。
一切花の方を見ないのだ。まるで、罪の記憶から目を逸らすように。それに気づいた時には、少し悲しさを感じるのと同時に、当たり前だ、と思った。
彼にとって鈴は、「浮気ゴッコ」を共謀した共犯者であり、また当時のことを思い出すトリガーでもあるのだ。
なんでもう少し早く気づかなかったんだろう。

ようやく気付いた頃には、鈴と私は親友になっていた。
鈴は、ブーケを私に手渡してくれたあの日から、たまに遊びに誘ってくれるようになった。鈴は博識で、話が面白かった。あの時話した、花畑はもちろん、他にも色んなところに連れて行ってくれた。
だんだん打ち解けて、名前だけで呼びあえる仲になった。
彼女はとても魅力的だった。私は、どんどん、鈴に惹かれていった。それはきっと友愛。
蒼太への想いとは、少し違った感情だと思った。
今までの私の心の中には、蒼太しかいなかった。蒼太の色しかなかった。
そこに、突然鈴の色が割り込み、混ざらずとも共存していて…、とても、心地が良かった。それと同時に、蒼太に依存する以外の生き方を知った。もっと心の中をカラフルにしてみたいと思った。

鈴は、私にとって特別な人だった。私を変えた人だった。それは蒼太も同じ。
でも、蒼太は、鈴とあまり関わりたくないようだった。
それが少し悲しかったけれど、とにかく花瓶は私の家に片付けておいた。今は蒼太の家に2人で住んでいるけれど、これからはたまに自宅に戻って花の世話をしなきゃ。
と思いながら、キッチンにて、皿洗いを終わらせていると、玄関の方から鍵の開く音が聞こえてきた。
恐らく蒼太が帰ってきたのだろう。
「おかえりぃ〜」
玄関まで迎えに行くと、蒼太はしばらく白い棚を眺めてから、私の方に視線を移した。
「ただいま。…お花、どうしたの?」
「えっと…、私の家」
と答えると、蒼太は
「…ふーん」
と、靴を揃えながらつぶやいた。
「だって蒼太、お花見ないようにしてたでしょ?嫌なのかな、って思ってさ。鈴のこと、思い出すの」
物問いたげなその顔に気圧されて、聞かれてもないのに口をついて言葉が出た。
「…まぁ別に言うほど気にしてないし…、別に玄関に飾っててもいいと思うけど。…愛依の好きにしたらいいと思う。俺に気を使わなくていいから」
蒼太は優しくそう言って、私の後ろの方にあるドアに向かって歩いていった。
蒼太が「気にしてない」と言うと、本当に気にしていないように思えるから不思議だ。あまり感情が顔に出ないからだろうか。顔に出ない、と言っても、ポーカーフェイスなわけではなく、常に笑顔だっていうだけだけど。貼り付けた笑顔なのはわかっているが、なぜか薄気味悪さは感じない。それどころか、安心できる顔。


夕食を胃に納めてからソファでくつろいでいると、不意に、
「そういえば愛依って、最近鈴さんと仲良いんだっけ?」
と、隣に座っている蒼太が言った。鈴に関する話題は避けると思ったのに、意外だった。
「え…、うん、そうだけど…」
「どんなこと話した?」
「鈴と話したこと?えっと…、たくさん話したからあんまり思い出せないけど…、」
「うん」
「あ、花畑に行った時、花言葉を教えて貰った…。鈴って花が好きみたいでさ、めちゃくちゃいっぱい教えてもらった!知ってる?赤いアネモネの花言葉って、『君を愛す』なんだって…!ロマンチックだよね」
「へえ…、お花の話か。可愛らしいな…」
「可愛らしいって、誰が?」
「もちろん愛依だよ。かわいい思い出、楽しそうに話すから」
そう言って蒼太は私の長い髪を撫でた。彼の長い指の間を、私の髪が滑っているのを感じて、少しくすぐったかった。
「鈴さんは、友達?」
撫でながら、蒼太が尋ねた。
「うん」
「そっか…、よかった。愛依に友達ができて」
「よかった?」
「ほっとしたんだよ。前までの愛依って俺ばっかりだったろ。俺のことしか考えてなかった。今だから言うけど、正直、不安だったんだ。俺がいるせいで愛依の視野が狭まってないかって思って。もっと世の中にはたくさん楽しいことがあるのに、愛依はそれを知らないから、全部全部俺だけで満足しようとしてただろ」
「……!」
図星だった。きっと、鈴との出会いというきっかけがなければ、私はそのままだっただろう。友達と遊ぶ楽しさも、花畑の美しさも知らずに生きていただろう…、そう思うとゾッとした。
「鈴さんと出会ってから、よく外に遊びに行くようになって、愛依も明るくなったよな。何より毎日楽しそうだし、ほんとよかった!」
そう言って蒼太は笑っていた。いつも顔に張り付けている方とは違う、生き生きとした笑顔。まさしく心から「よかった」と安心している顔だった。
「…なんか蒼太、お母さんみたい。引っ込み思案だった娘に友達ができて喜んでるお母さん」
「え?俺、お母さんかあ…。まあ、そうかもね。愛依が成長してくれて嬉しく思うし…」
「それ、完全にお母さんじゃん。ご飯も作ってくれるし」
「うわ、まじだ!」





「いってらっしゃ〜い!」
翌日、今日も仕事へ向かう蒼太を見送る。
「行ってきまーす」
花瓶はまた玄関前に鎮座している。

続く

この作品についてのコメント/評価 (0)
 前の話へ 
(c) 2010, CGI Script by Karakara