第10話:あいすこうじょう
三人を待ち受けていたのは、思いもよらない光景だった。
《BGM:マイハッピー☆スイーツタイム♪》
「わぁ...かわいい!」
「ひんやりしてて、心地いいね!」
壁も天井も機械も、全て色とりどりのパステルカラー。敵の拠点であることを忘れてしまうほど、可愛らしい内装。
真っ先に心を奪われたのは、カービィだ。
「アイスクリームだぁぁ〜っ!」
アイスキャンディーのシーリングファンに、クッキーサンドの橋。小さな食いしん坊の心を掴むには、控えめに言って十分だった。
「わーい!わたしも〜!」
カービィとサーバルは、甘い香りのするほうへと駆け出していった。
「あっ二人とも...敵の罠かもしれないのに...」
「この『アイスクリーム』?すごくおいしいね!」
「しかもこんなにたくさん!てんごくだよ〜!」
二人は水色の機械から次々と出てくるアイスクリームを、仲良く分けている。
「もーっ、カービィさんたら...ここ敵の基地ですよ?どこから攻撃されるかわからないのに...」追いついてきたかばんが、あきれて言った。
「まぁまぁ、かばんちゃんもアイス、どう?」
「僕はいいよ、サーバルちゃん。毒が入ってるかもしれないでしょ?」
「そーかなー?こんなかわいくておいしい所、よっぽどアイスがすきなひとじゃないとつくれないよ!」
「はっ...くしゅん!誰かが、アタシのウワサでもしてるのかしら?もしかして...」
「確かにそうかもしれませんけど...とにかく!今はこの先に行って、敵のところに行くんですよ!」
「うん!アイス、もっと作ってもらえるようお願いしよう!」
「だから、目標が変わってるって!はあぁ...」
一行は工場の奥へ奥へと進んでいく。それは、壁に挟まれた下り坂に差し掛かったときに起こった。
「そろそろ寒くなってきたね...あとどれくらい?」
「ぼくのカンだと、あともう少しだよ!」
「博士たちなら、こういう所には喜んで来ると思ったけどなぁ...あれ?」独り言をぶつぶつ言っていたサーバルは、不思議な物体に気づいた。
片手に収まる位の大きさの、青い立方体が、台座に固定されている。
(これ...この箱にとびきりおいしいアイスが入っているのかな?)
彼女は立方体を取ろうとしたが、金具に押さえつけられているらしく、動かない。
「んーっ!」
力いっぱいひっぱると――ぱきん、と音を立てて金具が外れた。
途端に...後方のパイプから、水が勢いよく溢れでてきた。
《BGM:『wii』アナザーディメンジョン》
「わっ、な、何!?」
三人は泡を食って、下り坂を急いで駆け下りた。
前方のゲートが閉まっている。カービィたちはその隣の、狭い通路に逃げ込んだ。
「こっちでいいんですか?」
「わからない...でも、はやく逃げないと!」
曲がりくねった冷たい通路の先へと走る。水流もすぐに追いかけてきた。
「ドアが...しまってる!」その先のドアは閉ざされていた。他には、天井に小さな鉄格子と、いくつかのツララがあるだけ。
「ロボボがいたら...こんなドア、すぐ開けられるのに!」
「どうしよう...こんなところで...!」
(なんとかしてとめないと...水...氷...凍らせる...そうか!)
「かばんちゃん、そこのツララをぼくに!」
「え!?あ、はいっ!」かばんはツララを1つ折り、カービィに投げて渡した。彼はしっかりと、口で受け止める。
すると、カービィの頭で、氷の冠がきらりと光った。空気をいっぱい吸い込み、そして、
「ふうぅぅぅぅっ!!!」
触れたもの全てを凍てつかせる、絶対零度の吐息。水流は見守る二人の目の前で、氷となって静止した。
「すごーい!凍ったー!」
「カービィさん、それも...コピー能力ですか?」
「うん。これは『アイス』の能力。ぼくがとくに、使いなれてる能力のひとつだよ」
カービィはふうっと息をつき、汗を拭った。空気中の水分が昇華し、ダイヤモンドダストがきらきらと舞う。
「さて...水流も凍ったことだし、早くこの奥へ進みましょう!」
『おー!』
カービィとサーバルの力で鉄格子をこじ開け、もとの道へ。
「この箱...どうやったら開くんだろ?」
青い立方体は、奇妙な模様が彫られているだけだ。どれだけ引っ張っても、押しても、開きそうにない。
「かばんちゃん、これ開けられる?」
かばんは立方体を受け取り、まじまじと見つめていたが...
「サーバルちゃん...これ、箱ですらないと思うよ」
「ええーっ!?水流から逃げてまで、とってきたのに!?」
「でも、これきれいだよ。せっかくだし、持っていこうよ!」
そんな三人を、今度はずっと広がる氷の広場が待ち受けていた。
「みゃっ、滑って思うように歩けないよ!」
「だいじょーぶ!サーバル、ぼくとかばんちゃんの手をとって!」
「え、こう?」
「うん!じゃあ、いくよ!」
《BGM:『毛糸』タマゲールせつげん》
カービィは足元の氷を軽く蹴り、滑り出した。二人も彼にひかれ、動きだす。
「わっ、転ぶ...」
「ちょっと、からだの力をぬいてね。あと、えっと、じゅうしんを足のほうにね」
サーバルとかばんはバランスを崩しそうになったが、カービィの助言で体勢を保つことができた。
「わぁ!たーのしー!」
「そうだね!あっ、あの先に、大きな扉があるよ!」
「みんな、いくよ〜っ!」
カービィたちは氷原を優雅に滑走しながら、その扉へと進んだ。
「水攻めにしたっていうのに...まだピンピンしてるなんて。オマケに、こっちに近づいてるわ」
扉の奥――秘書は、モニターをつぶさにチェックしている。
「フーン...ケイン所長が研究したがってたのも、無理はないわね。でも...残念ね、カンパニーの掟は絶対なのよ」
そう言って彼女は、リモコンをいつでも取り出せるよう用意した。