あしかのらいぶらりぃ
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執筆者: ヒガシノ/投稿日時: 2024/01/11(木) 22:50:13
投稿者コメント:
相変わらずジグザグしている蒼太の好感度折れ線グラフ。
DVする人も、よく好感度をジグザグさせて被害者の精神を支配しようとする傾向にあるんですよね、確か()
蒼太さんがそうであるかは……想像にオマカッセします。
※ちなみに今回で、『号笑』と作品数(おまけを除く)が同じになりました!!しかし、まだ何章か書くつもりなので、これは…、前作より長くなるぞ…!(笑)
9.スズラン



蒼太に振られて3日。浮気なんかされた挙句振られたというのに、私の心はどこかで蒼太を求め続けていた。3日間求め続けた結果、ついに限界に達したようだ。私は素早く着替え、外に飛び出した。
向かうは蒼太の家。
やっとのことで到着し、懐かしの家を眺めると、窓から明かりが見えないことに気づいた。おそらく留守なのだろう。ならば仕事中なのかと考えて店に向かったが、そこにもいなかった。
だったら…。

あの女の家か。
そう気づいた瞬間、げんなりとした感情が心に降りてきて、もう帰ろうかと思ったが、蒼太に会うためには仕方ない。行くしかない。
例の洞窟に到着し、奥の方へと歩みを進めると、ドアの前に立っている蒼太の姿が見えた。
「蒼太!!」
そう声をかけてみた。すると、蒼太はこちらを振り返って、一瞬驚いたような顔をしたあと、ため息をついた。
「…なんで来たんだよ…」
嫌悪感がこもったような声だった。
「そ、蒼太に…、会いたかったからっ…」
「……もう別れただろ。赤の他人のくせに…。帰れよ早く」
信じられないほどの冷たい態度。私の思い出の中の蒼太は、そんな人じゃなかった。
「……なんで、そんなこと言うの…?私のこと嫌いなの?…ち、違うよね、私のことも好きだけど、私より好きな人ができたってだけだよね。ちゃんと今も私のことは少なからず好きなはずだよね…?」
「何その妄想。帰れってば。」
蒼太の刺すような冷たい目を見たくなくて、下の方に視線を動かすと、その手に電動ドライバーのようなものが握られているのが見えた。
「…それ、なんで持ってるの?」
「…洞窟からの風が冷たいから、ドアを二重扉にして欲しいって鈴が言うから……、つか、関係ないだろ。帰れよ。」
鈴って呼んでるんだ…。私以外の女性を呼び捨てにするなんて、前の蒼太の姿からは想像もつかなかった。
「…こき使われてるの?やっぱりさ、騙されてるんじゃない?…きっと鈴さんは、蒼太の、鈴さんを好きな気持ちを利用してさ、召使みたいにしようとしてるんだよ。…お家に一緒に帰ろうよ!私は…、蒼太をこき使ったりしないから!!そんな雇用関係みたいなのじゃなくてさ、私たち二人で幸せに…」
「…黙れ。俺はこき使われてなんかいない。あの人に力仕事は無理だからやってあげてるんだ。雇用関係じゃない。これは支え合いというものであって…。とにかく、勘違いするな。あと帰るなら一人で帰れよ」
「……蒼太、言葉遣い乱暴になったね…。イライラ、してるの…?」
「そうだよ、お前のせいで。だからここから早く消えてくれ」
「……っ…う…」
ふと蒼太の顔に目線を移すと、目を細め、眉間に皺を寄せて、どう見ても怒っているようだった。蒼太のこんな顔は一度も見たことがない。初めて蒼太に恐怖という感情を抱いた。私の心はもう、限界を超過して、目からは洪水が起きるほどの勢いで雨が降り注ぎ始めた。水滴が頬を伝っては落ちていくのを感じながら、脊髄で言葉を紡いだ。
「蒼太…変わっちゃったね…っ…う…っもう、あのときの蒼太には会えないんだね……あぁ…っ、蒼太…お願いだから、戻ってきてよ…。」
「………なんでそんなに必死なんだよ…。気持ち悪い、はやくどっか行けよ…」
「…うん。もう、帰るね……。」
私が帰りかけると、ドアの音がした。振り返ると、蒼太が家の中に入っていくところだった。
ふと、鈴さんと蒼太がどんな会話をしているのか気になった。もしかしたら、本当に召使のように扱われているのかもしれない。そうだとしたら、なんとか蒼太を救いださなければ…。そこまで考えて、ドアの方まで歩いて行き、ドアの表面にピッタリ耳をつけた。
わずかに会話が聞こえてくる。二重扉になっているからか、声はかなりくぐもっていて、不明瞭だ。
『……さっき………来ましたよ。…言われたとおりに、声をかけ…帰ってもらいました』
蒼太の声だ。ひどく疲れているような、ため息混じりの声だった。
『…そう…。思ったより早くの……でございましたね。声が……しだけ聞こえておりました。私の提案した通りの台詞………』
ここから先はあまりきちんと聞こえなかった。
『……にあれ、言い過ぎじゃないですか?ほぼ………「帰れ」ってついて…したし…、せ……てもう少し優しい言葉遣い……。』
『…まあ、佐…様がこの先またいらっしゃるかわかりませんが…考えておきます。しかし、………に優しくしすぎると、佐藤様がまた戻ってきてしまう確率が上がりますわ。だから今の……でも………なまじ棘が……た言葉を何度も投げかけられるより、一度だ……み鋭利なナイフで切りつける方が傷の跡が減りますもの。』
『………うぅ…ん…、でも、もう帰ってきてほしく……いな…、もう、愛依にあん……こと言いたくないし…。』
この辺りで会話は途切れた。
…どういうことだろう。台詞がなんとかって言ってたけど、あの乱暴な言葉遣いと、帰れ、の連呼…、これらは全部鈴さんに指示されていたことだったの?私を言葉で傷つけて、もう二度と戻ってこないように、あらかじめ考えられていたことだったの?でも、鈴さんはどうしてそこまでして、私を蒼太から遠ざけたがるのだろう。
ドアを開けた。二重扉なので、もう一度ドアを開けると、相変わらずの豪華な内装が目の前に広がった。しかし二人はいなかった。家の中は妙に鼻につく、むせかえるような花の匂いが充満している。二人はどこの部屋にいるのだろうか、と思い、ひとまず左の部屋を調べてみようと歩き出すと、ばたん、と音がしてわたしはうつ伏せに倒れた。花の匂いのせいで頭がぼーっとするし、くらくらして、吐き気を催した。私は死ぬのだろうか。そのまま全く動けずに、しばらく床に這いつくばっていると、上から声がした。
「愛依…!?鈴さん、愛依が倒れてる!!」
私の耳がおかしいのか、まるでマスク越しに喋ったかのような、妙にくぐもった声に聞こえた。
「あら、なんで家の中に…?」
「今はそんなこと考えてる暇はありませんっ!息…はしてます!病院に連絡を…!!」
「…いいえ、すぐに外に運び出して、外の空気を吸わせれば大丈夫なはずですわ。」
「本当ですか…?とにかく運び出しますよ!信じますからね!!鈴さん!」
さっきとは違い、『鈴さん』と呼んでいることに気づいた。あのときの呼び捨ても指示されていたものだったと考えると、安心した。いまだに体がいうことを聞かないので、安心している場合ではないのだけれど。
「ええ。じゃあお願いしますわね。何かあったら言ってくださればいいわ。私は一応電話の前で待機しておりますから。」
「はいっ!!オッケーです…!」
そう言って蒼太は私を横抱きにし、走り出した。意外と力持ちだったんだね。
朦朧とした意識と、目の前が真っ暗で、またほぼ体の感覚が遮断されている中、私を抱き抱える蒼太の手と体の温かさを僅かに感じていた。
「そ……た……、あ、ありがと、ね……。」
なんとかお礼を言おうと、感覚がなくなりつつある唇を動かした。
「無理に喋んなくていい…!!なんで勝手に家に入るんだ!!危険な気体が出てるから、わざわざ二重扉にしてたのに…っ!ああでも鍵を閉め忘れてた俺も悪いな…、ごめん!!」
そう言ってから、やがて息を荒げつつ、蒼太は走り続けた。しばらくして視界が少し明るくなり、私は洞窟の外に出たことを悟った。すると、蒼太は足を止めて、私を抱き抱えたまま、紅い木の下に座り込んだ。
「…大丈夫?地面に寝かした方がいい?ちょっと服は汚れるけど…、そっちの方が体制楽かな?」
「…っ…。」
「あ、うまく喋れないのか…。とりあえず、深呼吸して…。外の空気を吸えば治るって言ってたから…。」
言われたとおり、頑張って肺を動かし、深呼吸をした。しばらくそうしていると、すうっと体からだるさが抜けてきた。頭痛もある程度治ったようだ。
「…はぁ、はあ…蒼太、本当に、ありがとう…!」
やっと目のピントが合ったので、蒼太の顔を見上げてみると、ガスマスクのようなものを付けていた。危険な気体がどうとか言っていたし、そのためだろう。
「……元気になった?あーよかった、面倒ごとが消えて。じゃ、早く帰れよ。」
「あはは」
「何笑ってんだよ…」
「もう怖くないよ、それ。鈴さんに指示された台詞なんでしょ?」
「は…っ?え、なんで…知ってんの…。」
「ごめん、盗み聞きしちゃった…。」
「………そっか…。あは、そっかあ…!バレちゃったならもう、普通に話してもいいか。…てか、ごめんね、ひどいことばっかり言って…。」
走ったせいだろうか、息が荒く、ため息まじりに話していた。
「いいよ。別に。本心じゃなかったんでしょ?」
「うん。ぜーんぶ大嘘。本当は、愛依にイラついたことも、泣いてるのが面倒だと思ったこともないし…。帰ってほしくなかった、もう少し愛依の顔を見ていたかった…。愛依のことは今でも好きだよ。大好きだよ。」
「………本当にっ?ねえ、鈴さんに浮気してるのも嘘…?」
「…そうだね、嘘だよ。…鈴さんのことはこれっぽっちも好きじゃないし、そもそも恋人じゃない。…鈴さんももちろん俺のことには興味がない。…でも、仕方なかったんだ。愛依から離れて、鈴さんと一緒にいなきゃいけない理由があったんだ。…本当に…申し訳無かった…!許してくれなくてもいい…」
蒼太は頭を下げて謝った。
「うん、許すけど、代わりに色々教えてよ…!なんなの…?その理由って…、その…ガスマスクにも関係あるの?」
「…あ、付けたままだった…恥ずかしい…。…うん、そうだよ、関係大アリさ」
そう言って蒼太はガスマスクを取った。私を抱えて走ったせいだろうが、少し汗ばんでいた。そして、少し悲しげな顔をしているが、笑っている。ああ、これが私の記憶の中の蒼太。やっぱりあなたは笑顔が似合うんだ。
「君と…関係を完全に絶ってしまう必要があったんだよ」
「…なんで?」
「愛依を守るために」
「え、ねえ、どういうこと…?」

「…俺はね、」
蒼太は大きく息を吸った。
「五日後に人を殺そうと思ってるんだ」

続く

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