昔むかしのお話
昔むかし、とある星に、赤い長髪と美貌が自慢のとても若く心優しい、双子の妖精の王女様がいました。
その星は、王女様たちの不思議な力で統治されていたので、とても平和でした。
しかし、夜になると押さえきれないほどの数の魔獣が現れ、その星の人々は夕方までには戸締まりをしなければならかったのです。
ある星の降るようなきれいな夜、行くあてもなく銀河を巡る旅人が王女様たちのお城に訪れました。
「どうか、一晩だけ泊めてください…!
怪我をしてしまい、これ以上歩くことができないのです…!」
旅人は頼みました。
心優しい王女様たちは、旅人を泊めてあげることにしました。
その翌日、旅人は、
「昨晩泊めてくださったお礼です。
わたくしに何かお手伝いできることがあれば、何なりとお申しつけください。」
と、言いました。
しかし、王女様たちは怪我を負っていた旅人に何かをさせようとはしませんでした。
けれども旅人は頑としてその場を離れようとはしませんでした。
仕方がないので、王女様たちは夜現れる魔獣の退治を頼みました。
その夜、旅人は魔獣退治に行き、たった一晩で見事すべての魔獣を倒してきました。
翌日旅人には、英雄の称号と、王女様のかたわれがいつもつけている、輝くピンクのバンクルが与えられ、国中でお祝いのパーティが開かれました。
「この星で、国民の安全を守る仕事をしてくださいませんか?」
王女様たちは英雄に訊きました。
英雄はこの星がとても気に入ったので、とどまることにしました。
そして英雄は、その星の平和を何年も守っていました。
その数年後、とても科学の発達した星の軍が、新たな実験地を求め、この星に攻め込んできました。
瞬く間に戦争が始まり、何万人もの人が亡くなりました。
敵軍は最新の科学兵器を使って大量虐殺を行ったため、味方軍は圧倒的に不利でした。
それでもこの星の国民たちは健気に魔法の力で戦い続け、王女様たちや英雄も戦いに加わりました。
しかし、いつしか国民たちの魔力は尽きてしまい、国民たちはほとんどみんな、そして王女様のかたわれまでもが死んでしまいました。
わずかに生き残った人は、もう一人の王女さまと英雄、そして数人の傷ついた国民だけになりました。
負けたのです。
「お願いです…!
この星を、非道な道具を作るための、あわれな星にはしたくありません…!
みんな、この星が、大好きでした…。
あんな星に占領されるくらいなら、いっそすべてを壊してください…!!
天国で待っている他の仲間も、あなたさまのお姉様もきっと、そう望んでいらっしゃるでしょう…。
お願い、します…っ」
国民たちは王女様のかたわれに頼み、みな死んでしまいました。
この星に残ったのは王女様のかたわれと英雄、そして生きている者はいないか確かめる敵兵だけになりました。
「あなたは逃げなさい。」
王女様のかたわれは言いました。
しかし英雄は、
「私は、私の命が尽きるまであなたをお守りします。」
と答えました。
「いけません!
私の命など、どうでもよいのです!
今はあなたの命が最優先です!」
王女さまは、英雄に言いました。
英雄は何も答えられません。
王女様のかたわれは、まだ言葉を続けます。
「さあ、逃げなさい!
私は人殺しをするところを、私の変わり果てた姿をあなたに見られる訳にはいかないのです!」
「で、ですが…っ!」
「最後の命令です!
逃げなさい!
もうあなたは私を守らなくてよいのです!」
「…それが現実でも、私にはあなたを守り続ける義務があります!
私は、あなたを王女としてではなく、一人の人としてでも、守らなくてはならない立場なのです!
私はあなたを守り続けます!!」
英雄のあまりの剣幕に、王女様のかたわれは驚き、しばらく何も言えませんでした。
「……、…いいでしょう。
あなたは、私の後ろにいなさい。
私は今から、あまりの強さのため封印された、古代の破壊の魔法で二つの星を壊します。
この魔法を唱えた者は代償として、姿形、記憶や人格までをも変えるものです。
まわりにいた味方さえ変わってしまいます。
私はあなたを忘れてしまうかもしれません。
あなたも私を忘れてしまうかもしれません。」
「私は決してあなたを忘れません。」
英雄は断言しました。
「ええ…。
…またいつか、会えるといいですね…。」
「!
王女、早く唱えてください!
敵が!!」
「わかっています。」
王女様のかたわれは早口で呪文を唱えました。
刹那、巨大な爆発が起きました。
そして、王女様のかたわれの姿が爆風と共に変化していきました。
赤く長い、きれいにそろった髪は青く短くバラバラに。
透き通るような水色の薄い羽は、堕天使のような左右非対称の翼に。
それまでちゃんと見えていた、優しい宇宙色の目は、視力なしに等しい、刺すような青色に。
「!!!!!」
王女様のかたわれは、この世のものとは思えないほどの悲痛な叫び声をあげました。
まわりには魔法が散乱しています。
「王…、女…!
しっかり、…し…」
英雄は、王女様のかたわれを揺さぶりました。
「逃げ…な、…さい…っ…!!!」
王女様のかたわれは叫びます。
すると突然、散らばっていた魔法が光りだしました。
「王女…っ!!」
「ル……!!」
光は次第に強さを増してゆきます。
そしてまた、大きな爆発が起こり、二人は真逆の方向へと飛ばされてしまいました。
「サフィー王女ォォォォォォォォォーッ!!!!!!!!!!!」
「ルビィィィィィィィィィィーッ!!!!!!!!!!!」
それだけの、お話。