であい
目覚めると、辺りには一面草が生い茂っていた。どうやってここにきたのか、全然覚えていない。見上げると、血のように赤く紅葉した木の葉が見えた。
「おはよう」
声の聞こえた方を向くと、驚いた。なんだこの生物は。体は30センチ程だろうか。人のような形をしているが、腕はなく、手のひらだけがふわふわと浮いている。そして体全体も浮いていた。猫耳のついた黄色い帽子を被り、白いシャツにネクタイをつけている。よく見たら尻尾が二本ある。
「なかなか起きないから心配しちゃったよ!何かの間違いで死んじゃってるんじゃないかって…」
私の驚愕と恐怖をよそに、彼?は喋り続ける。
「あ、ごめんね!まずは自己紹介しなきゃ!僕は妖精のスイシィ!君の味方さ」
「妖精…?」
「そう!まあ実際には、人の形をしてて、小さいからそう呼ばれてるだけ。あだ名みたいなものだよ。」
「妖精はこの世界にいっぱいいてね…、ああそう、僕の弟が先に家で待ってるから、行こうか!僕の仕事は君を案内することなんだ!」
そう言ってスイシィは森のある方へと進み出した。とりあえずついていくことにした。
「家?」
「そう。君の新しい家だよ」
私の元々住んでいた家は…あれ、思い出せない。ここにきてからというもの、なぜか私についての記憶が全然思い出せないのだ。自分の名前さえも…。
「どうかした?燃香(もか)」
「それ…私の名前?」
「そのはずだよ。羽野燃香でしょ?君は」
不思議そうな顔をしてスイシィが言った。どうして私は私のことを思い出せないのか。そんなことを考えていたら、不意に甘い美味しそうな匂いがした。
「スイシィ、この匂いは…?」
「お菓子屋さんの匂いだね。最近この辺りにできたんだ。ちょっと寄り道していく?」
「うん…」
お腹のなる音がした。