あしかのらいぶらりぃ
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執筆者: ヒガシノ/投稿日時: 2023/12/08(金) 17:09:06
投稿者コメント:
海洋恐怖症の方は見ない方がいいかもしれません。
深海の宇宙飛行士
あるところに、茶色いトタン屋根の家があった。海の近くにあるので、窓からはすぐに海が見える。その近さは、子供が歩いて行けるほどの距離だ。だからこの家の子供たちは、しょっちゅう海に遊びに行く。海も庭の一部かのように。
ところが今日はあいにくの雨だ。だから兄弟は家の中で遊ぶことにした。
「粘土する?」
と、兄が家でできる遊びを提案した。
「する!」
弟が賛成したので、2人は粘土で遊ぶことにした。
「何作ろうかなあ〜」
兄が粘土をこねながら首を傾げて考えている。こねたときの反動が強く、密度高めの重い粘土だ。この粘土をこねるのには力がいるので、兄の手の甲には少し筋が浮き出ていた。
「僕、宇宙飛行士をつくる!」
「なんで?」
まだ何を作るか決まっていない兄は、参考程度に聞いてみた。
「僕ね、おっきくなったらさ、宇宙飛行士になりたいから!」
「ふぅん…。宇宙飛行士って、重い服着て、重いヘルメットかぶって、星空をゆらゆら浮かんでるやつだろ?あれになりたいの?」
「うん!お星様を見ながら浮かんでみたいの!」
なるほどね、と兄は、弟の夢みがちな煌めく瞳を見つめた。弟は物心ついた頃から星が大好きだ。ならば将来の夢が宇宙飛行士だというのも頷ける。
「じゃあさ、俺が宇宙服を作ってやるよ。お前に着せてやるから。」
と、兄が言った。
「やったあ!やろうやろう!!」
兄は弟の体に粘土をくっつけ始めた。『着せてやるよ』という言葉は、土台になれという意味もあったのかもしれない。父が粘土作家をしているので、子供用の宇宙服を作るには十分な量の粘土が家にある。今日は父が出張で、母は仕事で家にいないので、少しくらい粘土を失敬しても怒られないのだ。
そして、しばらくして、試行錯誤しながらも宇宙服が完成した。
「固まるまで動くなよ。壊れるから。」
「ずっと立ちっぱなしで足が辛いよ〜。」
弟が弱音をあげるが、兄はお構いなしになにやら次の作業に取り掛かり始めた。
「にいちゃん、何してるの?」
「宇宙飛行士って、ヘルメットもいるだろ?それもつくんないと。」
「確かにそうだけど…。足が…。」
「宇宙飛行士になるためにはキツイ訓練を受けなきゃいけないんだぞ。そんなことでピーピー言ってたらだめだ!」
「うう…。」
項垂れる弟をよそに、兄はヘルメット作りに精を出していた。
「…ガラスの部分は…表現できないからスカスカでいっか。穴空いてないと前見えないし。」
そう呟いてから、弟の方に向き直った。
「ヘルメットもできたぞ!!」
「やったあ…。」
弟は弱々しく歓声をあげた。
「なんだよ、もうちょっと喜べよ。」
「だから足が…。」
「固まるまでの辛抱だ。」
「わかったよお…」
ヘルメットを被せて見ると、ピッタリ穴の位置に顔が出て、一気にそれらしくなった。
「おお〜!かっこいい!」
兄は、宇宙飛行士がかっこいいというよりも、自分の作品がかっこいいという意味で喜んでいる。
「え!自分じゃ見えない〜!!鏡ちょうだい!」
「はいはい」
弟は、鏡を見ると一層目を煌めかせて、目玉がこぼれ落ちそうなくらいに目を見開いていた。今の自分の姿を目に焼き付けるために。
「すごいや!!にいちゃん、天才だよ!!えへへ…これ、本当に宇宙飛行士になったみたい!!早く宇宙に行きたいなあ〜!」
「そうだな…。」
兄は少し考える仕草をした後、口を開いた。
「…擬似体験ならできるかもしれない。この宇宙服を着て、海に浮かんで星を見るんだ。そしたらちょっと宇宙にいるっぽくなるだろ?」
「…!!にいちゃん!!!…天才!?」
「まぁね。」
「早くやろうよ!!」
弟は待ちきれない様子で地団駄を踏もうとしたが、粘土の宇宙服を着ていることを思い出して、やめた。
「ダメだ。まずは海水に溶けないようにニスを塗らなきゃ。というかまだ全部乾いてないし。」
と言いながら、ヘルメットを取り上げて机に置いた。
「にいちゃん足が限界だよ…!自然乾燥は無理じゃない!?ドライヤー持ってきてよお!」
「…ん〜…。確かに。ちょっと持ってくる。」
兄は、そう言って部屋を出た。しばらくして、ドライヤーを手に戻ってきた。そしてコンセントにプラグを挿し、スイッチを入れて宇宙服を乾かし始める。粘土が渇き、固まると、宇宙服は簡単に脱げた。
「早く夜にならないかな〜!」
「そうだな…、後、母さんに夜の外出の許可をもらわないと。」
兄が宇宙服にニスを念入りに塗りたくりながら言った。
「そうだね!帰ってきたらお話ししなきゃ!!」
***************************
窓の外が暗くなり始めた頃、2人の母親が帰ってきた。母親は子供たちの話を聞き、簡単に夜間の外出の旨を承諾した。雨も止んでいたし、何より2人のアイデアを面白く思ったのだろう。少し母親も浮かれている様子だった。
外に出ると、真っ先に聞こえるのは波の音だ。その方に2人が顔を向けると、満点の星空と海が見えた。しかし、空と海の境界は暗さのせいでまったくもって不明瞭で、まるで二つが混ざり合っているようだった。
「行こう!にいちゃん!」
弟は宇宙服を頭の上に掲げるようにして持っている。ヘルメットは兄が持っている。粘土製宇宙服を着ると全く動けなくなるので、海のすぐ近くに行ってから着るつもりだ。
「うん。行こう。」
海の近くまで来て、ついに兄のアイデアを試すときがきた。宇宙服を着て、ヘルメットをかぶって、兄の介助のもと、なんとか仰向けになって粘土と体の隙間に溜まった空気で浮かぶことができた。
波に揺られながら、星を見る。粘土のずっしりとした重力は感じるけども、ほとんど宇宙と同じ感じがする。
「…すごいや…。」
弟は星から一ミリたりとも目を離さず、感嘆のため息を漏らした。兄は砂浜でそんな弟の様子を腕を組んで眺めていた。これこそが俺の作品の真の完成形である、なんて芸術家気取りのことを考えながら。
弟がしばらく宇宙飛行士気分を堪能していると、不意に、頭の方が冷たくなってきた。ニスの塗りが甘かったのか、それとも粘土が薄かったのか、ヘルメットの後頭部あたりの粘土が海水に溶けたようだ。どんどん海水が入ってくる。兄や母は気づいていない。助けを求めようとするが、腕のあたりの粘土は絶対に壊れないように特に分厚くしてあったので、腕を振ることもできない。それどころか、下手に動こうものなら沈んでしまう。
ならば大きな声を出すしか、
「っにいちゃーーーー…」
ざぶん。

運悪く波が弟の体を包み込み、一気に海へ沈めた。兄が気づいて助けに行こうとしたが、もう遅かった。弟の体は重い粘土のせいで普通よりも速いスピードで海の底へ落ちていく。元々は浅い場所で星を見ていたのに、いつのまにか波のいたずらで深い場所に移動させられていたのだ。大切な弟と自分の作品をいっぺんに失った兄は、頽れて泣きじゃくるしか無かった。
***************************
深い、深い、海の底。壊れた宇宙服を身にまとい揺蕩う、ひとりぼっちの男の子。体の感覚が消えて、肺にあった空気も全て使い切ってしまい、死を待つだけの瞳には、場違いにまばゆく煌めく、星くずが映っていた。




○実際の夢の内容
私が友達の男の子の体と顔にセメントを塗りたくって窒息死させる夢でした。すっっごい病んでる時に見た夢です。
妄想が捗りすぎて全然違う話になった…。笑
宇宙飛行士と海…どっから出てきたんでしょうね…?マジで謎です。

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