ワドルディ戦記1
ここはあきれかえるほど平和なプププランド。ついうとうとしてしまうようなポカポカ陽気の午後にその客は現れた。
コンコンコン
ノックの音を聞いて家の主は立ち上がった。
「ふわぁ〜ちょっと待ってください〜」
ワドルディはあくびをしながらのんびりと玄関に向かうと、特に確認もせず戸を開けた。
「はいはい、どなた…」
「やっと見つけたぞい!」
まず目に入ったのは赤い服とポンポコお腹。なんと、訪れてきたのはこの国の自称大王、今ワドルディが最も会いたくない人物だったのだ。
「だっ、大王様っ!?」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるデデデ大王。周りには武器を携えた数人の部下がワドルディを逃すまいと立ちふさがっている。
(ああ…ついにこの時が…)
ワドルディの脳裏に数か月前の出来事がよぎった。
「機は熟した。今こそ、我らが力を見せる時!だらくに満ちたプププランドをこの手で変えてくれる!」
メタナイトの宣戦布告とともに発進した「戦艦ハルバード」。ワドルディもクルーの一員としてその戦艦に乗り込んでいた。
きっかけはプププランドに「悪夢」が舞い降りた、あの夢の泉事件。デデデはスターロッドを取り戻そうとするカービィを阻止すべく、プププランドの各地に部下を送り込んだ。
そのころデデデ城で働いていたワドルディも駆り出され、オレンジオーシャンという、その名の通り海辺の地域に配属された。
そこでのトップ、皆を取りまとめていたリーダーがメタナイトだったのだ。ただ、当時は直接接触したことはなかった。
ワドルディは下っ端だったためメタナイトから直接指示が送られるのではなく、指示を聞いた隊長の命令に従うのみだった。
なのでカービィが皆の夢を取り戻した後、メタナイト自ら自分のもとにやってきたのには驚きのあまり飛び上がってしまった。
「私と共に、このプププランドをあるべき姿に戻さないか」
「は、はぁ…。でも、それって大王様を裏切るってことですか?」
そもそも何故、しがない下っ端の自分が選ばれたのか。そう問うと、
「カービイの攻撃を受けたヘビーモールを修復したことがあっただろう」
そう、城では主に機械関係の仕事をしていたワドルディは、カービィの猛攻を受けたヘビーモールの修理を任されたのだ。機体の損傷こそひどかったものの1つ1つの傷は単純なもので、ワドルディにとっては難しい作業でもなかったのだが…
「今回のクーデターには戦艦を使用する。どうしても優秀なエンジニアが必要なのだ」
ワドルディはデデデに何の恨みもない。かといって、絶対の忠誠を誓っているわけでもなかった。なにより、これは自分がエリートになれるチャンスなのだ。ザコ敵の代名詞であるワドルディたちが光を浴びることはめったにない。今までコツコツやってきた努力が報われる日が来たのだ。
「わかりました、協力します!」
早くも不穏な空気を感じたカービィが迫ってきている。
「ハルバード、発進!」
エンジンの轟音とともに幕を開けたワドルディの戦いは、彼が思っていたほど甘くはなかった。