全ての始まり
つまりは、一人だった。
彼、ギャラクティックナイトがナイトメアの要塞から脱け出して数ヶ月。
単身で乗り込むことも考えたが、如何せん相手の軍勢が多すぎる。
つまりは、仲間が欲しかったのだ。
「さて、どうしたものか……」
彼は誰にともなく呟いた。そんな彼の心情とは裏腹に、空は面白い程に青く澄んでいた。
関係ない者を巻き込む訳にはいかないのだ。
「そうか、それなら……」
彼の頭にひとつの名案が浮かんだ。
彼は純白の翼を広げ、羽ばたいた。
自分が脱け出したあの要塞へ。
先程の地面には、汚れひとつない羽毛が落ちていた。
「退屈だぁぁあぁぁ」
パルスが長い溜め息とともにはきだす。
「静かにして、パルス。集中力がきれるでしょう」
パルスを冷ややかに半眼で見やるのは、末の兄弟にして長女、ノシルテだ。
「そうだ。特にお前には思考能力が足りん。いっそ『がっこう』とやらに通えばいい」
巨大な本から顔もあげずに言うのはオールド。その背後では眠たげに目を擦るパラガが座っている。
「ちぇっ、つれねえの」
パルスは座り直そうとしたが、動きを止めた。
「あ……」
半開きの口から小さな声がもれる。
「?どうした」
オールドは思わず身を乗り出した。しかしパルスは振り返らず魂が抜けたように棒立ちしていた。
窓の外には白い一対の翼が輝いていた。
「鳥……?」
呟いたがすぐに違うと思い直した。
あれには頭があり、身体があり、足があり、手が……
「……なぜ人が……?」
数秒後、控えめに窓を叩く音がした。
「突然ですまないね、」
彼はそう言いながら翼をしまう。オールド達はその様子をまじまじと見つめた。
「?……ああ、君たちには翼が無いんだったね。改めてはじめまして。私はギャラクティックナイト」
彼は気にした様子もなく話しはじめた。
「本当に突然ですまないね、君たち、ここから逃げたいとは思わないかい?」
「……え?」
彼の突拍子もない台詞に、四人とも言葉につまる。それを絶好のチャンスだと言うばかりに、彼は続ける。
「ナイトメアがどのように教育してるかは知らないけど、ろくでもないのでは確かだね」
「なッ……なんでそんなこと言えるんだ!!」
「言えるよ。だって私はナイトメアに我慢できなくなって逃げたんだから」
今度こそ言葉を失った四人に彼は言った。
「ナイトメアは宇宙を悪夢で支配しようとしている。それでもここでのうのうと暮らしたいかい?私はそんなのごめんだ。さあ、君たちはどうするんだい?」
パルス、パラガ、ノシルテ、そしてギャラクティックナイトの視線がオールドに注がれた。
「わかった、力を貸そう。」
「「「「!!!?」」」」
「な、なぜお前も驚くのだ……。助けを求めてきたのはそっちだろうに……」
「ここは最後の最後だったんだ……。まさか了承してくれるとは思っていなかった」
ギャラクティックナイトが安堵のため息をついた。
「そうと決まれば、逃げますか!!」
ハイテンションなパルスに引っ張られるように、五人は要塞から逃げ出した。
「あ、そうそう、私 君たちの兄さんだから。よろしく」
「「「「!!?」」」」
「クッ……アイツめ、四人とも連れだしおって……」
「社長。いかがなさいました?」
カスタマーサービスが労るように声をかけた。
「アイツだ。最初の知能型魔獣、ギャラクティカだ」
「ああ、彼ですか」
「近々彼等には制裁を下すことになろう。フフフフ……フハハハハハハ!!」
要塞には、ナイトメアの笑い声が響いた。