アドの苦悩
わたしはいわゆる絵描きというものだ。とある学校で絵の技術を学びながら、一人で創作にふける日々を送っている。よく言えばさすらい、悪く言えばひとりぼっちである。
わたしとてはじめからこんな日々を望んでいたわけではない。友達と他愛のない話で盛り上がり、気になる人と恋をたしなみながら充実した日々を送ることも可能だっただろう。
だが個々の才能の差に気づいてしまった以上、これ以上周りとの関係を深めることは不可能という判断に至った。
わたしの周りを衛星のようにぐるぐる回っているのは自尊心と羞恥心。わたしはいまだにこの自尊心を捨てきれずにいる。そしてこれがわたしの生活をいかに邪魔してきたか、それは言うまでもない。
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わたしの故郷はこのプププランドから遠く離れた村にある。この町もなだらかな丘が続くことや多少近代的な建物があるだけで特記する箇所はない。
だが、わたしの村はそれすらもしのぐ超がつくほどの田舎であることを明言しておこう。テレビも無ければラジオも無い。車もそれほど走っていない。当然この村で暮らすには「退屈」という二文字がつきまとうことになる。
「こんな村で退屈するぐらいなら、もっと広いところで絵の技術を学んでらっしゃい」というご厚意もあったのだろう。村の外には興味があったので、そのご厚意に応えることにした。
結果はこの通りである。わたしは皆の才能に埋もれた。周りの皆が優雅に海を泳ぐシャチだとすれば、わたしは井の中の蛙だったのだ。
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思い足取りで何日かぶりの学校へ向かう。そこには、いつも校門の脇のベンチ座っている奇妙な人がいる。その奇妙な人はなぜかわたしを気にかけてくる。
「何してるんですか......先輩」
「ひなたぼっこだよ。アドもやるか?」
私は首を二回降って丁重にお断りした。当の先輩は何も気にすることなく、高笑いしている。わたしとは感性が違うのだろう。
「そういや最近学校に来てないみたいだけど、何かあった?」
私はため息混じりに答えた。
「前に言いませんでしたか?わたし、ここよりすっごく遠い村から来たんです。だから、他の人より技術の差があって居づらいんですよ......」
「無理に自分を演じようとするからダメなんだよ。もっと僕みたいにパーッと気楽にいていいと思うぞ」
「先輩は気楽すぎなんですよ」
「気楽で何が悪い!」
気楽で悪いことは特に無いと思う。図星をつかれるとどうもひねくれてしまう。