この歌声がどこまでも 1話 2話
1話
暗い森、暗い光、暗い植物、暗い…
何回、何千回と「暗い」っていう言葉がつく森。魔物はでるやら盗賊は襲ってくるやらといろいろ大変な森。そんな森の中でひっそりと暮らしているのがこの私。一人優雅で暮らしているつもりだが、一応私だって苦労している。こんな所で一人虚しく立っているわけじゃない。
お姉さまが死んでしまったー….。いや正しく言えば転生した、のほうが正しいのか?まぁそんなことはどうでもいい。そのお姉さま達が転生をしたせいで、この武器の担当の精霊が、わたしになっちゃったわけ。そしてこの武器は非常に珍しい。そのせいでよく狙われる。…どうせすぐに死ぬと思うけどね。
2話
ふと目が覚めると目の前には見慣れた槍がある。なんとなくそれに触れようと手を伸ばす。でもお姉様は私に触らせてくれない。「危ないから」 そんな理由で私に触らせてくれない。なんとまぁ酷いことだろう、危ないとか別に私にはどうでも良かったのだ。ただたんに見たり触ったりするだけなのに。この槍を私で染めちゃおうとするだけなのに、そんなことすら許されない。だからお姉さまがいない隙にこっそりと見に行こうとしている。でもいつも失敗するばかり。どうしてだろうか?あと数歩の所でお姉さまに見つかってしまう、そして連れ戻される。いつもこんな感じに繰り返している。半人前の精霊だから見つかってしまう、まだまだ力がないから気配を探られて見つかってしまう。昔はそんなことばかり考えていた。どうしても私はあの槍に触れたかった。だから必死に修行した、必死に勉強した、けれども結果は同じだった。なぜだろうか。なんで私はあの槍の為に一生懸命になっているのだろうか。無駄だっていうことも知らずに一生懸命と、まるで自然界の中で最後まで生き延びようとする魔獣のように。
今思うとくだらないことだった。あの時は何もかもが必死になりすぎて辛い…いや、むしろ楽しかったかもしれない。あの槍をこの手で染め上げるのが楽しみで仕方なかったはずだ。でも今となればなんだ?この結果は。私は今幼き頃に触れたかった槍を持っている。いやこの槍の精霊になっている。簡単に手に入れてしまったのだ。あの時私は何が起きているのかいまいち理解できなかった。唖然とする事しかできなかったのだ。
あの時も私はあの槍に触れようとしたのだ。そしてあと数歩と言う所でお姉様に見つかってしまった。今日もだめか、そう思いながらお姉様と一緒に帰った。帰り道はやけに静かだった。長い道も今日はいつもより短く感じてしまった。
「なんで貴方は毎回ここに来るの?ここは凄く危ない森なのよ?」
「…槍をみたかったから。」
「その槍も危ないわ。だから絶対に触っちゃだめ。」
「なんで?」
「それはまだ貴方がー…」
「…」
「…なんでもないわ。忘れてちょうだい。」
「また言った。」
「え?」
そこからはよく覚えていない。気がついたら家にはついていたがお姉様はいなくなっていた。なんも跡形もなく。私はどこを探そうがお姉様はいないような気がした。どうしてだろうか、そんな思いが頭によぎった。そして私は誘導されるかのようにあの森に入った。危険な森なのだが、なんだか静かだった。静かだったせいか私は無意識で歩いていった。するといつの間にか目の前に槍があった。神々しく光る槍。まるで一目ぼれをしてしまったかのように私は息を飲んでその槍にそっと触れた。
その結果が今にいたる。なぜあの槍に触れたのか、なぜあんなに静かだったのか、なぜお姉様は来なかっただろうか。でもそんなのどうでも良かった。この槍に触れたのだから。それからというものの、なんだかとてもつまらない毎日が続いた。魔獣がでようが盗賊がでようが魔法使いがでようがただただつまらなかった。私の中から楽しみという感情がいつの間にか消えていたかもしれない。
そういえば、なんでお姉様はいなくなったのだろう。家出でもないしなぜだろうか。そのことが不思議で仕方なかった。お姉様は私を大事にしてくれた。だからそう簡単に捨てるわけがない。あの森の中にはなんも変わらないはずだ。ただ赤い色の液体があったぐらいしか覚えていない。きっと魔獣とか死んだり、そこら辺にある血だろう。槍に触れた時少し血が付いてたのが違和感だけどあまり気にしなかった。お姉さまはどこに行ったのだろうか。
でも思い当たることが一つある。それは転生だ。精霊は転生ができるからきっとそれをしたのだろう。でもなんで私には何も言わなかったのだろうか?
でもそんなのはどうでも良かった。
そんな思い出に耽っていると誰かが私の前に現れた。どうせいつもどうり槍に触れようとして死んでいくだろう。そんなことを考えながら私はぼんやりと目の前にいる奴をじっと眺めた。あぁ、なんて綺麗な深緑色。死んでいくには勿体無い。でもそんなことすら私にはどうでも良かった。ただただ私は緑色のやつを見つめていた。