アッサントゥーレ王国:ドードルーア
アッサントゥーレの首都となる町、「ドードルーア」。
この町の真ん中には、とても大きくて白い壁に赤い屋根のお城が建っている。
その中には、何百もの召使いと、何万もの兵士と、たった一人の王女専属召使いと暴君王女がいた。
「おっうっじょっさっま〜♪町の大通りの市場で珍しい茶葉を手に入れたので早速紅茶を入r…きゃあぁああ!」
王女専属召使いのシャールルが、紅茶の入ったティーカップをトレイに乗せ、王女の部屋のドアを勢い良く開けた。
と、その途端シャールルが悲鳴を上げた。ガチャン!と音がしてティーカップが割れた。
「おぅわぁあ!びっくりしたー・・・。ど、どうしたんだシャールル?」
その悲鳴に国の王女、シードは驚く。
シャールルが悲鳴を出した光景。それは、
剣を片手に自分に逆らった召使い共をバッサリ切り落とす王女…。
何てことはなく(実際そういう王女だが)、
「王女の椅子に座りながらもカップラーメンを食べるシード王女」の方だった。
嗚呼、こんな王女は世界中何処を探してもいないだろう。いや、いるはずがない。
「あぁああ、王女様!何度言えば分かるんですか、『王女らしくして下さい』と!!
嗚呼、これを亡くなられたお母様が見たら何と言うでしょう…。」
シャールルはシードの「王女らしくない行動」に絶望し、わめく。
シードにはもう王女のかけらも無い。
国の住民は言うだろう。何故こんな奴が王女になれたのか、と。
まぁ王族だからこんな奴でも王女になれて当然なのだが。
そんな事より、他国の王女にシードがカップラーメンを食べていた事実を知られたらまずいことになるだろう。
きっと、他国の王女に会った時には笑われるに違いない。
…もう既に笑われている存在ではあるのだが。
シャールルは今では口癖となってしまった「お母様が見たら…」、「他国の王女に知られたら…」を何度も繰り返し呟く。
流石にシードもイライラし始めたようで、不機嫌な顔になって
「王女が好きな事をして何が悪い。」
と呟いた。
勿論、王女だから好きな事をしていいのは当然(勿論限りはあるが)何だが、これでは子供の夢が壊れてしまう。
「何が『王女が好きな事をして…』ですか!!これはやり過ぎですよ!
全く…宜しいですか?これからし一生カップ麺を食べることは禁止です!」
シャールルが怒鳴る。こんなこと、普通の王女なら言われなくても分かるのはずなのだが…。
「何故召使いに言われなければ…「何か言いましたか?」「ちっ…黙れストーカー召つk「な に か い い ま し た か ?」「…何でもない。」
シードは小声でシャールルに反抗していたが、結局シャールルに押され負けた。
「そうですか!分かりました。あらあら、ティーカップが割れちゃったので
新しい紅茶入れ直して来ますね!」
シャールルはそう言うと、表情をコロッと変え、天使スマイルをキメて部屋から出ていった。
「シャールルめ…普通の人だったらとっくに斬っている処だったな。」
シャールルが出ていった後、シードは不満の声を漏らす。
この世界だと力では一番強いと言われるシードだが、色々考えると実際はシャールルが一番なのかも知れない。
ちなみに、シードは世界中何処を探してもいない様な人だが、
シャールルもまた、世界中何処を探してもいない様な召使いだ。
それは、先程の言い争いの時にシードが反抗の為に言った、
「ストーカー召使い」と言う「王女様、また何か言いました〜?
…まぁ良いです、新しい紅茶をお持ちしましたー!」
と、シャールルが新しいティーカップに紅茶を入れ、戻って来た。…話はまたの機会に。
「王女様、早く召し上がって下さい!冷めてしまいますよ?」
シャールルが早く早く、とシードが紅茶を飲もうとするのを急かす。
「あ、あぁ…。」
シードはゴクリ、と紅茶を一口飲み込み、窓から見える外の世界に目を向ける。
と、西の空に日が落ちていく。空は紅く染まり、同時に町の家々も太陽により紅く染まって行った。
城の一番上にあるこの王女の部屋。ここでは、町の約半分が見渡せる。
自分が王女だからこそ見れるこの景色。
シードは、紅茶を飲みながら夕焼けを見る、この時間が一番好きだった。
「シャールル、明日も晴れると良いな。」
シードが微かに微笑みながら言った。
「そうですねぇ…、明日もこの景色が見れると良いですね…!」
シャールルもそう言って、優しく微笑み返した。
夕暮れの太陽が、窓から外を見る二人の顔を紅く照らしていた。
(End)