星のワドルディ
カービィたちの活躍で、プププランドにまた平和が戻った。皆の中心となって戦ったカービィは、国中の者たちから英雄として称えられた。
みんなにちやほやされていい気になるカービィ。
しかし、そんなカービィのことを快く思っていない人物がいた――ワドルディだ。
(僕だって一緒に戦って活躍したのに…! 大王様もみんなから称えられ、メタナイトも部下から称えられているのに僕はちっとも…)
そんなワドルディのところに、カービィがやってきた。
「どうしたのー? そんなに怖い顔して」
「かーび……!?」
カービィはいつにも増して丸々太っていた。
「どうしたの!? その姿…」
「みんなから食べ物いっぱいもらっちゃってね〜。ワドルディにも分けてあげるよ」
ワドルディはリンゴを一つだけ受け取った。カービィはたくさん持ってるのに…。
「口が疲れたから家に帰るね。それじゃあ!」
カービィは家に帰っていった。
とりあえずワドルディも自分の家に帰ることにした。
ところが…
「えっ!?」
なぜか家の中が荒れている! しかも、部屋の奥で何かが動いている音がするではないか!!
恐怖で動けないワドルディの目の前に、丸い影が飛び出してきた。
「ちょっとごめんよ。なんか食い物ねぇかあさってたんだ」
「シャドーカービィ!」
それはカービィの影の存在であるシャドーカービィだった。人の家の食糧をあさるなど失礼きわまりなかったが、ワドルディは怒らなかった。
ある考えがひらめいたのである。
(シャドーカービィなら相手にされない僕の気持ちも分かってくれるよね!)
ワドルディは今の自分の気持ちを彼に打ち明けることにした。
「実はかくかくしかじか…こういう訳なんだけど…」
一通りワドルディが話し終わったところでシャドーカービィは言った。
「で? お前はどうしたいんだ?」
「もちろんカービィより目立ちたいんだ! ねぇ、どうすればいいかな?」
「お前さー、カービィはヒーローだぜ? かなうと思ってんのか?」
「ええと…自信ない」
「やっぱりな」
そこでシャドーカービィはある提案をした。
「カービィの悪い噂を流すってのはどうだ〜? これは効くぞ!」
「そ、そんなのできるわけないじゃん…」
「まったくお前はお人よしだよなぁ。これが一番効果があるのに…。じゃあ、特訓してカービィよりも強くなって見返してやるってのはどうだ?」
「でもそれ、どれだけかかるの? そこまでしなくてもいい…」
「なんだよー。じゃあお前のことを町のみんなにアピールするってのはどうだ?」
「なるほど、それなら手軽に効率よくできそうだね。じゃあそれやってみよう! でも、どうやって?」
「まあ黙って見てなって。俺にいい考えがあるんだ」
シャドーカービィはワドルディに、町まで出るようにと言った。
「そんなことしてどうするのさ! どうせ町に行ったって僕のことなんか…」
「いいんだよ、とにかく行くだけで」
いまいち状況を理解できないワドルディ。しかしシャドーカービィは彼を無視して町まで連れていった。
町に着くなり、シャドーカービィは大声で叫び始めた。
「ワドルディって働き者だよな〜! 城で一番働いてるの、お前なんだろ?」
「ちょっと! 恥ずかしいからやめてよ!」
「しかもお前、優しいよな〜! この前なんてさ…」
「だからやめてってば!」
ワドルディはシャドーカービィの口をふさいだ。
「なんだよ! せっかく俺がお前のことアピールしてやってるのに」
「そんなことで僕の人気があがると思ってるの? 周りを見なよ!」
シーン…
人々はしらけていた…。
「ちょっと!」
ワドルディはシャドーカービィを引っ張って路地裏に入った。
「いきなりそんなこと言ったら他の人も驚くし、これじゃあ逆効果だよ!」
「なんだよ! お前がやるって言ったのに…。じゃあ他に何か案はあるのかよ?」
「え、えっと…うーん…うーん…」
「この調子じゃ考えつかないな。今日はもう帰るから明日までに考えておけよ! んじゃ!」
「ちょっと!」
ワドルディは引き留めようとしたが、シャドーカービィは無視して行ってしまった。
「…行っちゃった。しょうがない、帰ろう」
夕方、ワドルディはまだ悩んでいた。
ワドルディは自分の頼れる主君であるデデデに相談しようかと考えたが、思いとどまった。
(大王様も、きっとカービィと同じだ。ほめられていい気になってるんだ)
そんなことを考えるうちに、ワドルディの頭の中に暗いもやもやが溜まってきた。
(暗いことばかり考えてちゃだめだ! そうだ、気分転換に散歩でもしよう!)
ワドルディは家を出た。夕焼けに染まる景色を見ていると、ほんの少し気持ちが晴れたように感じたが…
しかし、しばらくするとやっぱりワドルディは考え事をしてしまっていた。
その時。
「あれ? どうしたの、ワドルディ。元気ないね」
「えっ?」
そこにいたのはアドレーヌだった。
「アドレーヌ、どうしてここに?」
ワドルディが尋ねる。
「ここら辺、すっごく景色がきれいなの。それを描いててね」
そう言いながらアドレーヌは、ワドルディの後ろを指差した。振り返ると、とても色鮮やかな紅葉と夕日が見えた。考えていたので気付かなかっただろう。
「ところで、何を考えてたの?」
「実は…」
ワドルディは全てを話した。
「そうなの…でも、そんなこと考えるのはもうやめたら?」
「な、何で? だってカービィは何度も――」
「カー君は影でいろんな苦労をしているの」
「そりゃそうだろうけど…」
「あのね」
アドレーヌがワドルディの言葉をさえぎった。
「カー君だってつらいのよ。そんな風には見えないかもしれないけど、本当はみんなから注目されてすごくプレッシャーを感じているの」
黙ってしまったワドルディを見ながら、アドレーヌは続けた。
「確かにカー君は強いし、魅力的。でもね、それはカー君がとっても努力しているから。もちろんみんなの知らないところで」
「……」
「だから、カー君の気持ちも分かってあげて」
そう言ってアドレーヌは口を閉じた。
「…うん、分かったよ。ありがとう、アドレーヌ」
「じゃあね、ワドルディ」
いつの間にか日は沈み、あたりが暗くなってきた。ワドルディは家路についた。
(そうだよね…カービィだって努力してあんなに強くなったんだ。それなのに僕は…)
家の中で、ワドルディは考えていた。
(僕がカービィのためにできることはないだろうか…そうだ!)
「カービィの相談に乗ってあげよう!」
ワドルディはカービィの家へと向かった。
カービィの家に到着したワドルディは、ドアをノックした。
しかし反応はない。ドアを見てみると鍵が開いている。
「カービィ? ねえ、カービィ! …いないのかなぁ? 入るよ」
ガチャッ
部屋に入ると、そこには倒れているカービィの姿があった。
「どうしたの!? カービィ!」
意識がない。
すぐにデデデ大王に電話し、医者を呼んでもらった。
「どうだ?」
医者の顔を覗き込みながら、デデデは尋ねる。しかし、返ってきた言葉は意外なものだった。
「こ、これは…こんな病気は今まで見たことがない…」
「なんだって!?」
医者の言葉に、デデデは驚いて聞き返した。
「おい、どうにかならないのか?」
「どうにもなりません…」
ワドルディが横から割り込んだ。
「でも、安静にしてちゃんと看病すればよくなりますよね?」
医者はため息をついて首を振った。
「駄目です。このままでは命に関わります」
「命に関わる…だって!?」
デデデとワドルディはほぼ同時に叫んだ。
ワドルディはなおも医者に尋ねた。
「そんなのないよ! 先生、何とかして下さい!」
「うーむ…治す方法がないわけではないが…これは危険すぎるし…」
「危険でもいいです! 先生、その方法を教えて下さい!」
医者は少しの間ためらっていたが、やがて話し始めた。
「ある危険な場所に、万病に効くと言われている伝説の薬草があります。それを使って薬を作れば、治るかもしれません」
「伝説の薬草…? それはどこにあるんですか?」
「暗い森の中にある巨大な地下遺跡の最下層にそれはあります。少し長い話になりますが…」
医者が語った話は、だいたい次のようなものだった。
かつて、その場所には国があった。人々は皆平和な毎日を過ごしていた。
ところが、ある時王の娘である姫が病気にかかってしまった。
王は大賢者から、どんな願いもかなえるといわれている大彗星、「ギャラクティック・ノヴァ」の話を聞き、早速銀河の果てを目指した。
様々な苦労を乗り越えてギャラクティック・ノヴァのところへ行った王は、どんな病気も治す薬草を持てるだけ求めた。そこで娘を直接治すように言わなかったのは、これからまた病気にかかったらのことを考えてのことだったそうだ。
王はたくさんの薬草を持って自分の国へ帰った。
しばらくして、侵略を狙う闇の国が戦争をしかけてきた。王は薬草を盗られないように、遺跡の奥深くへ隠した。
そこにはさまざまな仕掛けがあり、いまだに最深部にたどりついた者はいないという…。
「じゃあ、直接ギャラクティック・ノヴァにお願いしたらいいんじゃないか?」
「それはできません。この前カービィさんが太陽と月を仲直りさせる際、カービィさんの話ではギャラクティック・ノヴァは壊れてしまったそうです。星の力をつなげば復活するらしいのですが、そんなにすぐには復活しないそうですし…」
すると、先ほどまで悩んでいたワドルディが言った。
「僕は行くよ! カービィの命がかかってるんだもん!」
「お前が行くならわしも行くぞ!」
「大王様…!」
「しかし、二人だけでは――」
「待った!」
その時、玄関から声がした。
「私も一緒に行くぞ!」
「おお、メタナイト卿! でもあなたがどうして…」
医者が尋ねる。
「うむ、実はあの遺跡はトレーニングのために行っていた場所なんだ。もちろんどんな罠があるかは大体分かるぞ」
「メタナイトさん…」
ワドルディはこんなに嬉しく思った事はなかった。なぜなら、メタナイトはワドルディのもう一つの憧れの存在であったからである。
「うぅ…く、苦しい…」
カービィがうめく。医者は三人に出発を促した。
「皆さん早く出発を!」
「分かった! 行くぞ、ワドルディ、メタナイト!」
張り切って出発しようとするデデデを、メタナイトは止めた。
「陛下、待ってください!」
「ぞい? どうした?」
「あそこはとても危険な場所です! 何か傷薬を持っていかないと…」
「そうだったな…よし、ワドルディ、お前の家から傷薬を取ってこい!」
「…え? 僕? …わ、分かりました!」
ワドルディは慌てて自分の家に引き返した。
「傷薬はあったけど、何に入れようかなぁ」
ワドルディは手元にあったごく普通のバッグに傷薬を入れた。
急いでデデデたちのもとへ戻ると、デデデは待ちきれないようにしていた。
「ワドルディ、何をしてるぞい!」
「す、すいません」
「さぁ行くぞ!」
メタナイトは出発の号令をかけると、戦艦ハルバードを呼んだ。
「あそこは自力で行くには遠すぎる。それに、いざという時のために武器が必要だろう。戦艦内にあるから持っていくといい」
皆は早速戦艦に乗り込んだ。
ワドルディは、カービィの家が遠くなっていくのを窓から見つめていた。
(カービィ、待ってて。僕ら薬草を持って必ず帰ってくるから)
遺跡の入口に到着。皆の先頭に立って戦艦を降りたメタナイトは驚愕の声を上げた。
「なんだこれは!」
遺跡の扉は派手に壊されていた。
「これは最近壊された跡だ」
ワドルディはびっくりして言葉を返す。
「じゃあ、誰かが侵入したってこと!? そしたら薬草は――」
「すでに取られたってことだ」
デデデは言った。
「それはまだ分からないが…。時間がない。とりあえず入るしかなさそうだ」
(それにしてもこの跡…どこかで見たような…)
「よし、入るぞ!」
三人は遺跡の中へ入っていった。
「ここは不気味な所だな…今にもこの石像動き出しそうだぞ」
「そんなことはありませんよ。私が行った時は動くなんてことなかったし。罠はまだまだ先――」
しかし次の瞬間、突然床に穴があいた。
「うわああぁぁぁ〜!」
三人は真っ逆さまに落下していった。すると先ほどの石像が動き、三人が落ちた穴をふさいだ。
「いてて…ここはどこだろう?」
しばらくして、自分たちが穴の底に横たわっていることに気付いた。あたりを見回したが、真っ暗で何も見えない。
こう暗くては行動しようにもできない。メタナイトは戦艦から持ち出した懐中電灯を点けた。
その瞬間、三人の目にとんでもない光景が! なんとあたりに大量の骸骨が落ちているではないか!
「ぎゃあぁ! 骸骨だあぁ!」
「えーい、いちいち騒ぐな! 黙ってろ!」
デデデはワドルディの口を武器と一緒に持ってきたガムテープでふさいだ。
「ふが、ふが…」
「どうやら、ここに訪れた人は全員死んでしまったようだな…」
「なにぃ!?」
驚くデデデ。メタナイトは言葉を続けた。
「これは元々外敵の侵入を防ぐために作られた罠だ。きっと出られなくて死んでしまったのだろう」
それを聞き、ワドルディは口のガムテープをはがして言った。
「このままじゃ、僕らもここにいる骸骨のようになっちゃうよ…なんとかしないと」
「うむ…手分けして出口を探すか」
しばらく進むと、壁が崩れかけている場所があった。しかし、そこにできた隙間は狭く、そのままではワドルディが出るのがやっとの大きさだった。
その時、デデデが何かを思いついた。
「いい考えがあるぞい。わしがハンマーで壁を壊していき進むというのはどうだ?」
「ほう」
「この隙間は何か怪しいな…この先はどこかにつながってるんじゃないか? ここで死んでしまった奴らはどうしようもなかったかもしれないが、幸いわしらには武器がある。これを有効に使えば出られるかもしれん」
「なるほど、それはいい考えですね。やってみましょうか」
そしてデデデはハンマーで壁を壊し始めた。
「それにしても…メタナイト、お前、罠の位置は把握しておると言っていたではないか」
「すみません」
そう答えつつも、メタナイトは別のことを考えていた。
(さっきは外敵の侵入を防ぐために作られた罠と言っておいたが、本当にこんな罠はあっただろうか…?)
そして数分後…
「あれは!」
三人の目に見えてきたのは、なんと行き止まりだった。
「も、もうだめだ〜。僕たちも骸骨になっちゃうよ〜」
ワドルディは半分泣きながら言った。
しかし、あとの二人はそれを無視して壁を見ていた。
「陛下、この壁何か様子がおかしいと…」
「あぁ、わしもそう思ってたぞい」
「何か仕掛けがあるのでは? ここに暗号らしきものが見えます」
「そうみたいだな。おいワドルディ!」
ワドルディは聞いていない。
「ワドルディ!!」
デデデが叫ぶとワドルディは急いでやってきた。
「ど、どうしたんですか?」
「暗号を解くぞい!」
「僕なんかに無理ですよ」
「無理だと!!」
デデデが怒るとワドルディはすぐに暗号を解き始めた。
しばらくすると、暗号が解け壁がつぶれた。三人は奥へと向かった。
そこにはトロッコ乗り場があった。
「ほう…いいタイミングでトロッコがあるじゃないか。これを利用しない手はないな」
「ここまでタイミングがいいのも何か怪しいですが…」
そう言って乗り込もうとするデデデとメタナイトを、ワドルディは呼びとめた。
「ちょ…ちょっと待って下さい!」
「…? 何ぞい?」
「さっきから誰かにあとをつけられているような…」
「何言ってるんだよ、そんなわけないだろ〜」
「いや、気配は私も感じている」
メタナイトも言う。
「二人して冗談を…のわーっ!!」
デデデはだれかに押され、トロッコに一人で乗って遠くに行ってしまった。
「大王様ー!」
メタナイトは後ろを振り返った!
「…! シャドーカービィ!」
「待たせたな」
「なぜお前がここに?」
メタナイトが問う。
「何を言っている、俺はカービィの分身だ。カービィが心配なだけだ」
「シャドーカービィ…ありがとう!」
ワドルディに言われ、シャドーカービィはちょっぴり恥ずかしそうにした。
その時、突然悲鳴が聞こえてきた。
「ぐわぁ――!」
「これは…大王様の声!」
「いかん、急ぐぞ! 私につかまれ!」
シャドーカービィとワドルディはメタナイトにつかまった。メタナイトは助走をつけて飛び上がると、デデデを追いかけた。
(くっ…二人を背負うとスピードが思うように出ない…!)
「ぎゃああぁ!」
再びデデデの悲鳴。
(このスピードでは間に合わない…だが、トロッコの先にあるのは絶対に危険な何かだ。こうなったら…)
メタナイトは、つかまっている二人を置き去りにして大王を追いかけるのを優先した。
「このままでは追いつかない! 落とすぞ!」
ドスン!
メタナイトは飛び去った。
「あいてて…」
「行っちゃった…まったく、シャドーカービィが大王様にぶつかるから…」
「いやー、実は迷ってたんだ。三人の姿を見つけたら嬉しくてなぁ。勢い余ってぶつかっちゃったよ」
「ここにいちゃ何もできない。とりあえず追いかけよう!」
二人はメタナイトを追いかけることにした。しかし、まだいくらも進まないうちに問題発生!
「うぉゎぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
聞こえてきたのは、メタナイトの悲鳴だった。
「何かあったのかも知れない! 急ごう!」
二人は駆け出した。
――後編へつづく