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小説「
7.無邪気
」を編集します。
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作者名
ヒガシノ
タイトル
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内容
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深夜になっても蒼太は帰ってこなかった。眠くなったので、私は蒼太の家で眠った。本当に蒼太は帰ってこないつもりなのかもしれない、と思うと生きている心地がしなかった。 歩き疲れと泣き疲れで、すぐに私は夢の中に引き込まれた。 そこでは、生前の蒼太と私が、仲睦まじく一緒に暮らしているのが見えた。蒼太は朝食を作っているようだった。蒼太は料理上手だから、いつも朝食と夕食を作ってくれていた。蒼太の作るものならなんだって美味しかった。 ああ、あの頃に戻りたいなぁ…。 何かをフライパンで焼いている音がする。なんだろう、ベーコンかな。食器の音。包丁の音…。 いつのまにか私は起きていた。外が明るい。さっきの音は現実で、キッチンから聞こえてくる音だということがわかった。ということは… 「蒼太…!!」 帰ってきたんだ! 私は飛び起きて、寝室を出てキッチンに向かった。 「蒼太!蒼太ぁ…!!」 キッチンにはやっぱり蒼太がいた。 「…おはよ。」 蒼太は私の顔を見て、弱々しく笑った。髪もよれよれだし、ひどく疲れているように見えた。 「…蒼太、どうしたの…?」 「ああ…、うん、寝てないだけだから…大丈夫。」 蒼太はフライパンの中を菜箸でかき混ぜながら言った。どうやらスクランブルエッグを作っているようだ。 「寝てないの?なんで…?」 「…ずっと…探してたんだけど…、どうやらすれ違いになったみたいで…。俺が外で愛依を探してる間、もう愛依は家に帰ってた…。」 私ははっと息を呑んだ。私がくだらないことを考えて眠っている間にも、ずっと蒼太は外で私を探してくれていたんだ…。 「…ごめん…!私、私…最低だ…。蒼太が…浮気、してるんじゃないかってはやとちりして…。でも、蒼太はそんなことしないよね!だって私のことそんなに大事に思ってくれてるんだから…!!…だから…、あぁ…本当に、ごめんなさい…。」 「…うん…大丈夫…、愛依を不安にさせてしまった俺も悪いから…。」 蒼太はそれだけ言って料理に戻った。 スクランブルエッグとベーコンが食卓に並んだ。シンプルだけど、朝食としてはちょうどいい。 「愛依…。なんで俺が浮気してるなんて思ったの?何が、愛依を不安にさせたんだろう…。」 食器棚からコップを取り出しながら蒼太が言った。 「…えっと…花の飾りをつけた帽子の子と話す時の蒼太の顔…なんか違和感があるように感じて…。だから、蒼太はその子のことが好きなんじゃないかって…思って…。」 「そうかぁ…。」 二つのコップに牛乳を注ぎ、一つを私の前に置いてくれた。 「ありがとう。」 「うん…。」 蒼太は何か考えを巡らせているようだった。 「…まぁその、結論から言うと…、その違和感は、その子のことが好きだからじゃない。…むしろ逆で…。」 「逆って…、嫌いってこと?」 「うん…まあ、そんなとこかな…。といっても常連だからあんまり悪く言えないんだけどね…。」 そう言って困ったように少し笑った。 「そっかあ〜。でも、嫌いになるのもわかるよ。昨日私、その子の家に行って、お話ししてきたの。なんか…高飛車っていうか、蒼太のこと『庶民』って言ってたし…。ちょっと失礼なところあるよね。」 「…そうだなぁ…。…ふーん…庶民か…。そうか…。そうだけど…。」 納得がいかない様子で、スクランブルエッグを箸で弄んでいた。 「…というか、家に行ったんだね。すごかっただろ。有名なんだよ、あの洞窟の家…。」 「うん…豪邸が洞窟の中に埋め込まれてるみたいで…って、知ってるんじゃん!なんで昨日私が聞いた時知らないふりしたの…!?」 「あ、いや〜ごめん…。確かに知ってたんだけど、あの時の愛依、真面目な顔してたからさ…。そんな雰囲気の中で、『洞窟に住んでる』とか言ったら、ふざけてると思われるんじゃないかって…。」 「……そうかも…。」 蒼太なりの気遣いだったんだ。それなのに私は勘違いして…、本当に馬鹿みたい。 「…ごめんね。私、本当に…だめだね。」 「別に…、愛依は悪くないだろ。」 「…。」 蒼太はそう言ってくれているけど、やっぱり私はダメな奴だ。昨日、花の少女に言われた言葉を思い出した。 『ねえ、あなた、彼のこと信頼してないの?』 信頼していないわけはないんだ。でも、ふとした瞬間にその確証が揺らいで、持てなくなって。ずっと、ずっと、いつかは捨てられるんだろうなって思いながら生きてきた。 だって私は蒼太に相応しくないから。蒼太は誰よりも性格が良くて、子供の頃からの夢だった、パティシエになることも自力で叶えた。誰にでも優しくて、いつでも余裕があって、頼り甲斐があって…。 そんな彼のことすら、信用できないなら誰も信用できない。私はどうしてこんな人間になってしまったんだろう。何か、過去にそうなったきっかけがあるのだろうか。私はどんな人生を歩んできたのだろうか。 私の記憶は、蒼太に関するものだけ。私の記憶の中に残っているのは、蒼太だけ。蒼太だけなんだ。 おかしい。どうしてそんなに一人の男に執着しているんだろう。 おかげで自分のことを何も覚えていないんだ。どうして私はこんな人間になったんだ。どうして…? 「…蒼太は、本当に私のこと覚えてないの?」 誰か、私の生きた記憶を持っている人はいないのかな。 「…そうだなぁ…、なんか、朧げだけど、手作りのお菓子を何度かあげたような気がする。」 「お菓子…。」 お菓子をくれたからって執着するきっかけにはならないだろう。だったらこれは違う。 「…あ、そろそろ俺、行かないと…。」 いつのまにか朝食を食べ終えていた蒼太が言った。 「仕事?」 「うん」 「でも、寝てないんでしょ…?フラフラじゃん…。今日は休んだら?」 蒼太の動きを見ればすぐにわかる。つらそうだ。 「…休むのは…う〜ん…。でも…。どうしようかな…。」 「休むったら休もっ!それじゃあ私マイノさんに電話しとくから!店の番号何!?」 店と家を繋ぐ固定電話があることは確認済みだ。 「…〜わかった……、0…3…、」 蒼太がだるそうに椅子に座りながら番号を言い始めたので、急いで繋いで、マイノさんに休むことを伝えた。 「ふーん、蒼太が休む…、あー、いいよ。いいけどね…、彼女に電話させてんじゃないよ、ってあのアホに言っとくれ。メイちゃんっていったね?わざわざありがとね、メイちゃん。それじゃ。」 マイノさんはそう言うと、ガチャリ、と音を立てて電話を切った。 「…マイノさんに言ったよ!休んでいいってさ。」 「うん…。ごめん、俺が電話するべきだったのに…。助かった。ありがとう…。…あ、舞野さん怒ってなかった?」 「あ〜…、いやぁ、どうかな…あはは…。」 『彼女に電話させてんじゃないよ』、と言っていたことは伝えないことにした。 「え、なにその曖昧な反応…。もしかしてマジで怒ってた?」 「…いやぁ…その、まぁ、とりあえず今日はベッドで寝てなよ!」 「ええ…、それ答えになってない…、なんか言ってくれよぉ〜…。」 寝室に続く廊下。窓から日差しが差し込んで暖かいけど、電気をつけていないので、ほんの少し薄暗い。 「…別についてこなくていいんだよ?」 寝室までついてきた私に、蒼太が言った。 「だって、ふらふらしてて危なっかしかったし…。」 「そっか…ありがとう…。でも、歩くぐらいはできるから、大丈夫…。」 蒼太は相変わらず弱々しく微笑んでいる。その顔がどうしようもなく可哀想で、思わず、 「私を殴って!!!」 と口に出してしまった。 「…………はっ…?どした…?」 蒼太は目を丸くして私の顔を眺めている。 「あ、いや、だから…ね、蒼太がしんどそうで、しんどくなったきっかけは私で…申し訳ないから…あの…ぅん…。」 言ってしまってから、流石におかしなことを言ってしまったと、恥ずかしくなった。組んだ両手が汗ばんでいる。自分の体温が上がって、みるみる顔が赤くなっていくのが感じられた。 「…だから『殴って』なんて言ったの?…ははっ…あははっ…!愛依って、ちょっと変…!殴ってって…!やば…!!」 蒼太は無邪気に笑っている。ああ、すごく恥ずかしいけど、蒼太が笑ってくれるなら、悪くないかも。 「…はぁ…、ごめん、笑っちゃって…。だって、いきなり『殴って』とか…言うから…!ふふ、あははは……!だめだ、なんでこんなにおかしいんだろ、愛依助けて…っ!」 そう言って蒼太は声を殺してしばらく笑い続けた。さっきまでの弱々しい笑顔は嘘だったかのように、元気に笑っている。 「…何ツボってるの…!」 流石にそんなに笑われたら私だって腹が立つ。 「……ふー、…ごめん!笑いすぎた…。お腹痛い…。ごめんよ…ごめんって、そんな顔しないでよ…!」 蒼太はそう言って謝った。 「…うん…まあいいけど…。それとは別に、そんなに元気なら寝る必要ないんじゃないかなって思うな。」 「あるよ!俺疲れてるんだから!!はい、寝ます!!もう『殴って』とか面白いこと言わないでね!ふふ…、あ、思い出したらまた面白くなってきた…。」 「別に面白いと思って言ったわけじゃないし…!」 「…知ってるよ。愛依が優しいから、俺に迷惑かけたことをちょっと大袈裟に申し訳なく思っちゃったんだろ。だからあんなこと言ったんだよね…、ちゃんとわかってるよ、わかってるけどさ、インパクトすごすぎ…!あはは…っ…あー、面白かった…。」 「もう…。寝るんだったら早く寝て!」 蒼太を見ていると、たまに、中身小学生なんじゃないか、と思う時がある。そんな無邪気で無防備な面があるのも、好きだけど。 続く
投稿者コメント
書きたいもの書きました 蒼太さんは深夜テンションです。
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Karakara