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小説「
6.花の少女
」を編集します。
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作者名
ヒガシノ
タイトル
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内容
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蒼太と暮らし始めてから、私は毎日蒼太のお店に通うことにした。通うといっても、店の近くの木に隠れて、どんな客が入るのか眺めているだけだけど。目的は、蒼太に詰め寄る女がいないかどうかを調べるため。 といってもそんな女はなかなか現れず、安心した。蒼太は男にも女にも平等な態度で接する。笑顔も人によって変わったりはしない。所詮、客と店員としての関係でしかないのだ。 毎日客を見ていると、割と常連がいることに気づいたので、常連にはあだ名をつけて覚えておくことにした。 『シルクハットの男』『赤ワンピの女』『少年少女』『時雨さん』…というように。特に時雨さんは毎日来るようだった。そして、決まってプリンを注文する。わかる。おいしいよね。 数日後、常連が1人増えた。『花の少女』だ。花の飾りをあしらった派手な白い帽子と、フリルの多いボリューミーなドレスから、最初は三十代ほどの貴婦人かと思ったが、顔立ちを見ると十代後半ぐらいの少女だった。常に笑顔で、見た目に反しない上品な仕草。顔立ちは私が今まで見てきたどの女性より整っていて、遠くから見てもすぐわかるぐらいの美女…。 そして、気づいてしまった。この少女と接するときの蒼太の笑顔は、少し違和感がある。他の客に接するときとは明らかに違う点がある。具体的にどこが違うのかと問われれば答えを窮すが、決まって少女を見る蒼太の目には、違和感を感じた。その違和感は、私にはわからなかった。決定的に何かが違っていることは間違い無いのだけれど。 憎かった。やはり美女だから?あそこまでの美しさには、さすがの蒼太も惹かれてしまうのだろうか。あの美女と比べれば、私はきっと塵芥、いやそれ以下かもしれない。花の少女を見るたびに、蒼太がその子に視線を送るたびに、私の自尊心は削れていった。 家でも言葉を交わすことが少なくなった。 「…ねえ、最近元気ないよね?大丈夫?」 蒼太は、家に帰るなり、私に声をかけてきた。 「…なんでもないよ…。」 「嘘だ。なんかあっただろ。俺、話聞くよ?」 「…。」 何も言えなかった。あの少女に心を浮つかせてるんじゃないか、なんて言えば、蒼太との関係が崩壊する可能性がある。 「…うーん…、まあ俺、帰ったばっかりだし、手洗ってくるよ。その間にちょっと考えをまとめといてくれたら…。別に言いたくないならそれでいいし。」 蒼太が手洗い場の方へ歩いていく足音がした。ソファに座って、顔を伏せているから、音しか聞こえない。何も見えない。きっと、蒼太の顔を見たら何も話せなくなるだろう。 水が洗面台を打つ音が鳴って、止んで、また鳴って、しばらくしてドアの開閉の音と、また足音がこちらに向かってくる。 蒼太が隣に座る音がした。蒼太は何も話さなかった。私の言葉を待っているようだ。 「…蒼太。」 「…うん?」 「花の飾りをつけた帽子のさ…女の子、いるじゃん。」 「えっ…ああ、店によくきてくれる人か。そうだね。いるね。」 「『えっ』て何?」 蒼太がえっ、と言ったその一瞬の声色は、冷静さを失っているように聞こえた。 「何って…特に意味のない音だけど。どうかした?」 「…ううん。別に。…あの子の家ってどこ?」 …私は何を言っているんだろう。家なんか知ってどうするの? 「………知らない……。」 蒼太は少し考えてから言った。本当に知らないならば、なぜそんなに考える必要があったの? 「そっかあ。」 私は笑った。私の中で、立てていた仮説が確定した。2人の間には間違いなく何かがあるんだ。絶対に! 何も考えずに家を飛び出した。後ろから蒼太の声がした気がしたけど、次第に聞こえなくなった。蒼太は追いかけてこなかった。 その後、何をしたかははっきり覚えてないけど、通りすがりの人に花の少女の家を聞いて回った気がする。そして、やっと辿り着いた。そこは洞窟だった。 「…ここがあの子の家…?」 豪邸とかを予想していたが、洞窟…?私は嘘を教えられたのだろうか。仕方なく入ってみると、洞窟の中には松明が置いてあるが、明るさが足りないので、暗いのにはあまり変わりはない。しばらく奥へ進むと、大きな両開きの茶色い木製ドアが見えた。とりあえずノックをしてみることにした。ドアを三回叩き、 「…すみません…。誰か、いますか…?」 と言ってみた。こんな洞窟に人なんかいるのだろうか?ましてやあの可憐で上品な花の少女がこんなところに住んでいるわけがないだろうに。私は何をしているのだろう。 「……はい。どちら様?」 少女の綺麗な、可愛らしい声が扉の向こう側から返ってきたことに驚いた。本当に住んでいたのか。 「あ…あの…とにかく話がしたくて…。」 私は何をしているのだろう。このまま引き返せばいいのに。 「…少々お待ちくださいませ。」 少女のそう言う声が聞こえて、衣擦れの音がした。おそらく今もドレスを身につけているのだろう。 しばらくすると、ガチャリ、と音がして、扉が開いた。扉の奥には、驚くべきことに、豪邸のような広い部屋があった。まるで洞窟に豪邸が埋め込まれているようだ。 「話とは何かしら。端的に説明願うわ。生憎こちら、忙しいの。」 中から出てきたのはどう見てもお菓子屋で見た、花の少女。今は帽子がなく、綺麗に切り揃えられた、さらりとしたボブヘアーがよく見えた。私は生まれつきうねるような髪質だから、羨ましい。ドレスも近くで見るとより綺麗に見え、小柄で、手足は華奢で、人形のような可愛らしさ。…ただ一点を除いては。 なんだその、人を蔑むような視線は。クリっとした丸い黒い目は私を見下しているように見えた。 それより問題なのは、まだ私が何を言うか決めていないと言うこと。そもそもなんのためにここに来たのかわからないのだ。強いて言うなら、浮気を確かめるため…? 「…蒼太のこと好き?」 必死に考えて、出た言葉。これなら少女の言う『端的に説明』の注文にも見合うだろう。 「…誰ですの?ソレ。」 「家倉蒼太です。お菓子屋の店員で…。」 私が言い終わらないうちに、 「あははは!そう!あの店員ね?ふふふ…好きの『す』の字も御座いませんわ!なぜ私があのような庶民を好むと思ったのかしら…!あっはは!甚だ笑止ですわ!」 花の少女は笑って言った。 「…そう…。」 蒼太を侮辱されていた気がしたが、彼女は話の通じない人間だという予感がしたので、何も言い返さなかった。 「ふふふ…ああ可笑しい。…ところであなたは誰なの?ソレを言いに来たの?まさか、ソレだけを言いに?」 「…私、蒼太の彼女だから…。最近蒼太の様子がおかしいなぁと思って…。」 「…私と浮気してると思ったの?ふふふ…!愚かね、そんなわけないじゃない。彼が私の美しさに見合うと思って?隣に立つ資格があると思って??あっははは…!……有り得ませんわ。」 「…っ蒼太は…心の綺麗な人、だから…。」 流石にカチンときて、つい言い返してしまった。 「あははっ!そうは思えないわ!『心が綺麗』ならそもそも浮気なんてしないんじゃないかしら?ねえ、あなた、彼のこと信頼してないの?まぁ可哀想ですこと。」 …信頼。信頼はしている。しているはずなのに。 「蒼太があなたに向ける視線の…違和感…!気のせいだったのかな…?私の思い込み?…間違い…?」 「…私に向ける視線…?何よそれ。邪な目で見ていたとでも?…まぁ、私が美しすぎるあまりに…。ふふ、仕方のないことね。それが男というものよ、諦めなさい。私が美しいのは永遠に変わらないわ。」 「…ただの浮気じゃなくて…、蒼太の一方的な片思いってこと…?ぁあっ…、どう、しよう…!どうしたら…?」 「…ふん…、悩むなら他所で悩んでくれないかしら?なってないわね。そんなだから彼に見限られるのではなくて?」 「…あ…ごめん、なさい…。」 「…ではごきげんよう。」 そう言って花の少女が私の目の前で、がちゃん、と扉を閉めた直後、途方もない敗北感に苛まれた。 …家に、帰ろう。ちゃんと蒼太と話し合わないと。 洞窟の入り口まで引き返して、森の中を歩いて、家に着いた頃には夜になっていた。 机の上には、蒼太の作ってくれたご飯と、『帰ってきたら食べて』と書かれたメモが置いてあった。 この世界の家は、1日ごとに冷蔵庫の中身が入れ替わって、大体3食作れるぐらいの食材や調味料が勝手にいつのまにか用意されるようになっている、と蒼太が教えてくれたことを思い出した。 そんなことはどうでもいいけど、たくさん歩いてお腹が空いていたから、とりあえず胃に収めた。これを感謝するかどうかは話し合いの結果によって決める。 食べ終わった後、蒼太はどこにいるんだろうと思い、家中をくまなく探したが見つからなかった。もう私のこと、嫌いになってしまったのだろうか。私は家ごと置いて行かれてしまったのだろうか。 「そんなぁあ…っ…。」 涙が溢れた。溢れて、溢れて、止まらなかった。 「蒼太…愛してたのに…。」 もう、輝く蒼太はいなかった。代わりに私を照らしていたのは、窓から差し込む月と星の光だけ。 続く
投稿者コメント
おぜうキャラ書くの楽しいな!!
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