☆
はじめにお読み下さい
☆
小説に戻る
☆
最近のコメント・評価
☆
キーワード検索
☆
設定
☆
メインページに戻る
☆
サイトトップに戻る
小説「
号笑 第二章「猫井順の感情」
」を編集します。
* 印は必須項目です。
パスワード
*
新規投稿時に入力したパスワードを入力してください。
作者名
ヒガシノ
タイトル
*
内容
*
なんだ…?前から高笑いをしながら女子が向かってくる。 「っあっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」 …確かあの子は、夏野陽毬とか言ったっけ…。 隣のクラスの子だったはず。大人しいイメージだったけど、一体どうしたんだろう。 夏野の後ろ姿を見ながら、そんなことを考えていた。 放課後。 ずっと夏野の笑い顔が頭に染み付いていた。あの顔は、楽しいとか、面白いとか、そんな感情でできる顔じゃない。 周りの、たわいない話で盛り上がっている下校中の生徒たちを見れば一目瞭然だ。 誰もあんな引き攣った顔で笑うことはない。 あれは、悲しみからできる顔だろう。 そう直感的に思った。 あの笑い声は、号泣ならぬ号笑なのだ。 でも、そうだとしても、何が悲しくてあんな笑い声をあげていたんだろう。 明日、夏野に話を聞いてみようか。 仮にも俺は生徒会役員だ。学校生活に悩みを抱えている生徒がいるならば、助けてあげなければならないだろう。他のクラスの人だろうと、関係ない。 そんな考えは、 「何ぼーっとしてんの、順?」 友人の柳(やなぎ)の声で一旦中断された。 はっとして顔を上げると、心配そうに柳がこちらの顔を覗き込んでいる。 今日も前髪が長い。早く切ればいいのに…。 柳は幼稚園の頃からの幼馴染だ。下校の時は基本一緒に帰っている。 「なんでもないよ」 「順の『なんでもない』はなんでもなくないんだよなあ」 「まあ…あるにはあるけど…大したことないし、柳には関係ない」 「ええ〜?ちくしょう、お前の嘘ってわかりにくいんだよ…。何か隠してるんじゃないだろうな!」 「わかりにくいか?」 「わかりにくいわ!!ずっと無表情だし…。」 「無表情。」 「そう。無表情!すまし顔以外の顔できないのか〜?」 そう言って柳はこのこの、と俺の顔をもみくちゃにする。このくだり、こいつに出会ってから何回したか…。結局、何回やられてもポーカーフェイスを貫いたのだが。挙げ句の果てには、 「感情なさすぎだろ〜。血も涙もない奴だなあ」 そう言って笑われる。ここまでがいつものお決まりだ。 別に感情がないわけではないのだが…。わかっているのかいないのか、柳は呑気に笑い続けている。 もう、俺が何を隠しているのか追求することも忘れている。つくづく単純な奴だと思う。 ただ、一緒にいて楽しい。だから友達でいる。 柳の言ったように、もし俺に感情がなかったなら、柳と俺は友達にはなれなかっただろう。 結局友達なんてものは一緒にいて楽しいからというだけで成り立つものなのだから。 「じゃあまたな」 「また明日」 柳と曲がり角で別れた。そのあと、俺はいつも家にまっすぐに帰らずに、高架下に向かう。 家の近くには小さな川が流れており、そこにかかる橋の下にあるとある場所へと向かう。 確か、手前から三番目の柱のところ。 そこには小さな段ボールがあり、今日も中から微かに鳴き声が聞こえる。 「やあ、こんにちは」 そう声をかけながらダンボールを開けると、中には小さな子猫がいた。猫の種類には詳しくないが、確かこの柄はキジトラとかって言うんじゃなかったか。黒と茶色の独特の縞模様があり、腹から口のあたりにかけては雪のように真っ白だ。 その白が特に印象的だったので、俺はこいつを「ユキ」と呼んでいる。 普通、この名前は白猫につけるような気もするが、まあ捨て猫の名前なんて誰も気にしないだろう。 小さな青いまんまるな瞳が俺の姿を捉える。ユキは、俺が来たことを確認すると、甘えた声で鳴き始めた。 「はいはい。ちょっとまってよ…」 そう言いながらカバンから、毎日誰にもバレないように持ち歩いている猫用のミルクを取り出した。 ダンボールの中にあらかじめ入れてある容器にミルクの粉を入れ、水筒の水を注ぐ。 お湯じゃないから溶けにくいけど、よくかき混ぜればなんとか飲めるぐらいにはなる。 ユキは待ってましたと言わんばかりにがっついて飲み始める。よほどお腹が空いていたんだろう。 「ゆっくり飲めよ〜…。むせそうだから」 猫がむせるかどうかは知らないが、一応そう言葉をかけておく。 顔を突っ込むようにして飲むものだから、顔中がミルクで真っ白になっている。その姿がおかしくて、つい笑みが溢れた。 やっぱり動物はいい。人間と違って、めんどくさい常識やルールも彼らの前では関係ない。 いつも無表情な俺が笑ったとしても、何も気に留めることなくミルクを飲み続けている。 一度だけ、他の人間の前で笑ってみせたことがあったが、その時の周りの評価は酷いものだった。 「えっ、順が笑ってる!?」 「なんで?なんか俺まずいこと言った?」 「なんかこわっ!不気味。」 俺は無表情である、という固定概念が突如目の前で崩れたものだから、周りの人間は、驚愕、心配、恐怖…と言った感情をあらわにした。 つくづく人間とはめんどくさいものだと思う。勝手に思い込みを作って、それが崩れた時には勝手に恐れ慄くのだ。笑っただけで恐れられるこちらの身にもなって欲しい。 そういった理由もあって、俺はいまだに他の人間の前では無表情のままだ。 別に、もう慣れたから、無表情でいることは辛くはない。しかし、無表情だからって感情がない、とか、冷血だとかサイコパスだとか、変なことを言われ、持ち上げられるのは苦手だ。 感情をあらわにすると恐れられ、無表情でいるとからかわれる。こんながんじがらめの状態を一旦ゼロにできるのが動物だ。 もう一度言うが、動物はいい。 特に猫は、犬とは違って適度な距離がある。だからと言ってこちらに興味が無いのかと思えば、たまに信じられないくらい甘えてくることもある。 だから俺は猫が好きだ。 しかし、こんなに好きな気持ちを全く理解していなさそうなのも猫だ。 気づくとユキは、ミルクを飲み終わり、毛繕いを始めている。しかし、顔中にミルクが付いているものだから、体毛にミルクを塗りたくっているようにしか見えない。ハンカチで拭いてやると、満足げに舌を出してあくびをし、そしてすぐに香箱座りで眠り始めた。…毛繕いはどうした。 まあ、いいか。ミルクもやったし、俺はこれで帰るとしよう。本当は連れて帰って家で飼いたいのだが、きっと親が許してくれない。学校で里親を募集中だが、現れる気配もない。 本当は、俺がずっと世話をしてやりたいから現れなければいいと思っているのだが、ユキのためを考えると、生涯ダンボール暮らしではかわいそうだろう。…かわいそうという感情さえ、猫の前では関係ないのかもしれないが。 そうして俺は帰路についた。 そこで、なんだかずっと何かを忘れているような気がしていたが、思い出した。 明日、夏野に声をかけないとだ…。 小道の石を蹴った。 続く
投稿者コメント
毎日投稿がんばるぞい ちょっと今回文が長いです。
この小説を削除する
(削除する場合のみチェックを入れてください)
※シリーズの第1話を削除するとそのシリーズ自体が削除されてしまうのでご注意ください。
(c) 2010, CGI Script by
Karakara