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小説「
12.ふたつの色
」を編集します。
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作者名
ヒガシノ
タイトル
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内容
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鈴蘭の少女がくれた花束は、花瓶に生けて、玄関の近くにある棚の上に置いた。 今まで何も置かれていなかった白くて小さな棚は、まるで花瓶を置くためだけに存在しているのかと錯覚するほど、花をの美しさを引き立てるのにピッタリだった。 私は、出かける時も、帰ってきた時も、玄関に立つたびにこの花を一瞬眺めては、鈴のことを思い出して、和やかな気持ちになる。 しかし蒼太は違った。 一切花の方を見ないのだ。まるで、罪の記憶から目を逸らすように。それに気づいた時には、少し悲しさを感じるのと同時に、当たり前だ、と思った。 彼にとって鈴は、「浮気ゴッコ」を共謀した共犯者であり、また当時のことを思い出すトリガーでもあるのだ。 なんでもう少し早く気づかなかったんだろう。 ようやく気付いた頃には、鈴と私は親友になっていた。 鈴は、ブーケを私に手渡してくれたあの日から、たまに遊びに誘ってくれるようになった。鈴は博識で、話が面白かった。あの時話した、花畑はもちろん、他にも色んなところに連れて行ってくれた。 だんだん打ち解けて、名前だけで呼びあえる仲になった。 彼女はとても魅力的だった。私は、どんどん、鈴に惹かれていった。それはきっと友愛。 蒼太への想いとは、少し違った感情だと思った。 今までの私の心の中には、蒼太しかいなかった。蒼太の色しかなかった。 そこに、突然鈴の色が割り込み、混ざらずとも共存していて…、とても、心地が良かった。それと同時に、蒼太に依存する以外の生き方を知った。もっと心の中をカラフルにしてみたいと思った。 鈴は、私にとって特別な人だった。私を変えた人だった。それは蒼太も同じ。 でも、蒼太は、鈴とあまり関わりたくないようだった。 それが少し悲しかったけれど、とにかく花瓶は私の家に片付けておいた。今は蒼太の家に2人で住んでいるけれど、これからはたまに自宅に戻って花の世話をしなきゃ。 と思いながら、キッチンにて、皿洗いを終わらせていると、玄関の方から鍵の開く音が聞こえてきた。 恐らく蒼太が帰ってきたのだろう。 「おかえりぃ〜」 玄関まで迎えに行くと、蒼太はしばらく白い棚を眺めてから、私の方に視線を移した。 「ただいま。…お花、どうしたの?」 「えっと…、私の家」 と答えると、蒼太は 「…ふーん」 と、靴を揃えながらつぶやいた。 「だって蒼太、お花見ないようにしてたでしょ?嫌なのかな、って思ってさ。鈴のこと、思い出すの」 物問いたげなその顔に気圧されて、聞かれてもないのに口をついて言葉が出た。 「…まぁ別に言うほど気にしてないし…、別に玄関に飾っててもいいと思うけど。…愛依の好きにしたらいいと思う。俺に気を使わなくていいから」 蒼太は優しくそう言って、私の後ろの方にあるドアに向かって歩いていった。 蒼太が「気にしてない」と言うと、本当に気にしていないように思えるから不思議だ。あまり感情が顔に出ないからだろうか。顔に出ない、と言っても、ポーカーフェイスなわけではなく、常に笑顔だっていうだけだけど。貼り付けた笑顔なのはわかっているが、なぜか薄気味悪さは感じない。それどころか、安心できる顔。 夕食を胃に納めてからソファでくつろいでいると、不意に、 「そういえば愛依って、最近鈴さんと仲良いんだっけ?」 と、隣に座っている蒼太が言った。鈴に関する話題は避けると思ったのに、意外だった。 「え…、うん、そうだけど…」 「どんなこと話した?」 「鈴と話したこと?えっと…、たくさん話したからあんまり思い出せないけど…、」 「うん」 「あ、花畑に行った時、花言葉を教えて貰った…。鈴って花が好きみたいでさ、めちゃくちゃいっぱい教えてもらった!知ってる?赤いアネモネの花言葉って、『君を愛す』なんだって…!ロマンチックだよね」 「へえ…、お花の話か。可愛らしいな…」 「可愛らしいって、誰が?」 「もちろん愛依だよ。かわいい思い出、楽しそうに話すから」 そう言って蒼太は私の長い髪を撫でた。彼の長い指の間を、私の髪が滑っているのを感じて、少しくすぐったかった。 「鈴さんは、友達?」 撫でながら、蒼太が尋ねた。 「うん」 「そっか…、よかった。愛依に友達ができて」 「よかった?」 「ほっとしたんだよ。前までの愛依って俺ばっかりだったろ。俺のことしか考えてなかった。今だから言うけど、正直、不安だったんだ。俺がいるせいで愛依の視野が狭まってないかって思って。もっと世の中にはたくさん楽しいことがあるのに、愛依はそれを知らないから、全部全部俺だけで満足しようとしてただろ」 「……!」 図星だった。きっと、鈴との出会いというきっかけがなければ、私はそのままだっただろう。友達と遊ぶ楽しさも、花畑の美しさも知らずに生きていただろう…、そう思うとゾッとした。 「鈴さんと出会ってから、よく外に遊びに行くようになって、愛依も明るくなったよな。何より毎日楽しそうだし、ほんとよかった!」 そう言って蒼太は笑っていた。いつも顔に張り付けている方とは違う、生き生きとした笑顔。まさしく心から「よかった」と安心している顔だった。 「…なんか蒼太、お母さんみたい。引っ込み思案だった娘に友達ができて喜んでるお母さん」 「え?俺、お母さんかあ…。まあ、そうかもね。愛依が成長してくれて嬉しく思うし…」 「それ、完全にお母さんじゃん。ご飯も作ってくれるし」 「うわ、まじだ!」 「いってらっしゃ〜い!」 翌日、今日も仕事へ向かう蒼太を見送る。 「行ってきまーす」 花瓶はまた玄関前に鎮座している。 続く
投稿者コメント
実は、本日2/18は、家倉蒼太さんの誕生日です! 2年前の今日、「家倉蒼太」というキャラ(の原型)ができたのです!!おめでとう!!! …ということで実はこの「あなたを追いかけたら、」という話はだいぶ前から考えてたんですよね。2年もほっといてましたが、やっと形にできてとても嬉しく思います。
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