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小説「
実力に比例しての感覚の鈍さはまさにタイタニック。
」を編集します。
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作者名
しぐれいど
タイトル
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内容
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実力に比例しての感覚の鈍さはまさにタイタニック。 日々誌 7月16日 極めて純情であるが純情である故に仲間(雲)が離れていってしまった晴れ。 担当者:リバース 昨夜の「ぶたい」は練習時間を十分に取れなかった事もあり、満足できる結果とは言えたものではなかったが、16体の中、結果を気にかけていた者は皆無。 端から見れば、そんなの陽気で不真面目なのだが、ここは新球は褒めて伸ばし、練習への参加は任意だ。元々不真面目で陽気な集団なのだ。 そんなへんちくりんな劇団でも「地上一番の劇団」なんていわれてしまったものだから困る。団員の仲が無駄に良いのは認めよう。練習は毎日全員参加している程だからな。学生さんにはよくある、「顧問の先生が嫌いだー」とか「嫌な先輩or後輩がいるー」とかがないからな。 だが、昨夜の「ぶたい」はなんだか上の空だった。原因を布団に入ってから寝るまでの時間で考えようとしたが、そんな原因など考える前から決まっていた。 なんてったって、夏季休暇だしな。わかりやすく言うと夏休み。みんなだいすきなつやすみ。しかも家庭課題がない! 社会球だし、テントに住み込みだし。こんなに良い夏休み、上の空にならないとビぃえデぃットじゃない! 7月17日 午前8時30分 リバースの部屋 俺は几帳面というわけではないが、球前に出る前に必ず身支度を済ませてから出て行きたい。別に生まれたときからそうなのではなく、5年前、俺が14の時だったなぁ。きっかけがあったわけだよ。 誰かに言い訳するように過去の事を振り返り、身支度を済ませたら、俺は指導室に真っ直ぐ向かった。 ちなみに、「真っ直ぐ」というのは比喩表現だとかそういうものではない。本当に俺の部屋を出て真っ直ぐなのだ。そんなに指導されるべき球なのか? 危険球か? 危険球だから退場か? 冗談。団長は俺だから、指導される必要はない。俺が団長ではなかったとしてもビぃえデぃットだ。指導なんてしない。ん、そういえば1回だけしたことがあったな。そいつはもういないが。 どっちにしろ、指導室に入ったら抹茶入り玄米茶の香りが入ってくるだろう。早く入ってその香りを楽しもうではないか。 扉が重い音を立てて開いた。 その時、早速抹茶入り玄米茶の鼻になっていた俺は部屋に充満した悪臭にわざと音を立てて崩れ落ちた。 紅茶だ。あらゆる球の汗の臭いを遥かに凌駕する悪臭と創作性を重視しすぎたあまりに実用性と需要が著しく欠けてしまった汁。汁なんてものでもないかもしれない。良い表現が見つからない。俺はとにかく悶絶する。 「あら、リバース。おはようございます。」 そんな俺の気も知らずにアミはご丁寧に挨拶なんて勝手に交わしてくれた。 「んん〜、んぐんんぅー」 ただ俺は混乱のあまりまともに口をきけない。自分でも何を言っているか、何を言いたいのかわからなかった。 「? ああー」 俺の異常を察知したのか、アミは一瞬不思議そうな顔をして、すぐ無邪気なような、挑発的なような笑みに戻った。 「ランティスが言っていたことは本当だったのですねぇ。」 何を言っているのだ? 混乱しくさった頭ではもう何も考えられない。 「愉快愉快、このままにしておきたいけれど、死んでしまいますねー」 「んががが!?」 アミは部屋の入り口でずっと悶絶していた俺を心底楽しそうに笑いながら俺の口を軸に廊下に引っ張り出した。俺を差し置いて楽しそうなのは少し癪に障るが、助けてもらったのでまあよしとしようじゃないか。でも口を引っ張ったのは許せん! 知っていながら紅茶を淹れたのは更に許せない。 口を引っ張られた所為で最後まで息が出来なかった俺はアミの手が離されると必死に体を上下上下。急いで息をした所為で噎せた。上下上下上下。また更に上下。 暫くすると、俺の上下運動がだんだんと治まってきた。息を数回ついて、さっきの事を思い出し、アミに疑問をぶつける。 「ランティスから何を聞いた。」 俺が上下運動を繰り返すうちに消えかかっていた笑みがアミに再び浮かんだ。 「リバース、貴方紅茶が嫌いだったのですねぇ」 「ありまーあーあ。」 俺は食べ物の好き嫌いは全くない。だから8歳の時自分が紅茶が嫌いな事を発見したときはかなりショックだった。なんでも俺は出されたものはなんでも口に受け入たい性分で、食欲がなくとも3度の飯だけは抜かなかったし残さなかった。何度も直そうと努力をしたが、直そうとするたびにどんどん駄目になっていく。もう今では部屋の中にあるだけでもさっきのようになってしまう。 俺は嫌いな物がある自分が恥ずかしくて恥ずかしくて、この事は心を許しきったパリエとランティスにしか言っていない。 パリエとランティスはビぃえデぃットを創った当時からいたメンバーだ。 ビぃえデぃットは俺が11歳の時に開いたもんだから当然二体とも年上で、今はパリエは26、ランティスは36になる。二体とも上の兄弟のような存在で、俺を弟のように接してくれた。一体っ子の俺にはとても心地良い環境だった。 パリエは淑やかな性格で、役柄も穏やかだ。よく紅茶嫌いを直すときも協力してくれた。パリエには心底感謝しなくてはならない。 だがランティス。ランティスは年長者の癖して年相応の「おとなっぽさ」ってやつがない。今も昔もだ。でもすごく頼りになるときもある。俺の気持ちをいつも察してくれるのだ。俺がそのことを上手く表現できない事が一番悔しい。 そんなランティスが俺の知られたくない事実をアミに口外したのだ。 まぁ、そんなことは、同じ照明兼役者であるアミとクイには話すつもりだったのだが。 あ、俺がアミとクイに話すつもりだということを察してくれていたのか。 いつかアミが知らずに紅茶を入れてしまうだろうしな。 「うむ、まぁいいであろう。アミ、折角用意してくれたところ悪いが、紅茶を下げて、まっちゅい……」 「抹茶入り玄米茶。ですね?了解です。紅茶は私の懐にしまわせていただきます。」 「……うむ。」 駄目だこりゃ。夜にでも抹茶入り玄米茶を噛まないようにしておかないとなー……。 7月17日 午前9時27分 指導室 「リバース、日々誌回してくれ、担当俺だから。」 クイが少し眠そうな顔をして入ってくる。この様子だと、こいつは俺が紅茶嫌いだってことは知らないのだろうな。 「ああそうだ、リバースお前、紅茶が死ぬほど苦手だったんだな!」 さっきの眠そうな顔が嘘のように、クイがケタケタと小気味良い音を立てて笑う。どんな笑い方だ。お前もコーヒー飲めないだろうよ。俺も飲めないが。 「抹茶入り玄米茶、上がりましたよ。」 アミが声を少し張り、御用の抹茶入り玄米茶を持ってくる。 「やった、俺はこの時を待っていたんだー!」 嬉しくてもうぐるぐると小躍りをしてしまう。 「げ、玄米茶って苦いじゃんか、紅茶飲めないのにそれは飲めるのか。」 俺はこの発言に少しクるものがあった。何故かはさ、 「げ、玄米茶じゃねぇ! 抹茶入り玄米茶だ!」 俺はそう言った、というより怒鳴った。抹茶入りを強調してやった。だが決して玄米茶が嫌いというわけではない。好きだ。寧ろ好きだ。というよりもお茶全般が好きなのだ。愛してるー 「愛してるー」 しまった、どうやら声に出してしまったようだ。最後だけ。 「……わかった、お前が抹茶入り玄米茶を……わかった。わかったわかった。」 一瞬黙り、抹茶入りを強調して言い、あはっと苦笑い。ああ、引かれた。まぁクイだからいいけれど。 何時の間に淹れたのか、アミは麦茶を持って机に向かって来た。 「クイ、麦茶も淹れて来ましたよ。冷たい方です。」 そうか、冷たい方ならすぐ上がるか。 「あ、ああ。ありがとう。」 あ、そうだ日々誌回さなきゃ。 「ほれ日々誌。」 俺はクイに日々誌を投げ渡し、抹茶入り玄米茶を一口啜る。ああ、これぞ世の幸の中心。 「そうだったな、ありがとう。」 それから静かな時間が始まった。クイは日々誌を捲り、アミは趣味の手芸に手を勤しませる。そして俺がお茶を飲み目を静かに閉じる。 7月17日 午前11時2分 指導室 クイが日々誌を閉じた。紙の塊に空気が押し出される音で俺は目が覚めた。転寝をしていたようだ。 「なんかお前の文って胡散臭い感じがする。」 「自分でもそう思っていた。」 思っていたことをそのまま口にした。確かに俺の文章は少し胡散臭いな。俺が昔読んでいたファンタジー本の影響かもしれない。色々な作家の書き方が移ったのだろう。昨日の日々誌は少し熱血漫画入っていたような気がする。しょうがないだろう、夜に書いたのだから。夜中のテンションってヤツだ。 「あとさぁ、『極めて純情であるが純情である故に仲間(雲)が離れていってしまった晴れ。』ってなんだよ、普通に快晴でいいだろー」 「るっせ」 あの表現には少し自信があったのだ。 「あら? 昨日の日々誌ですね、ちょっと見せてください。」 アミがひょこりと顔を出し話に加わる。 「ほーらよっ」 クイが日々誌を投げアミに渡る。なんかこっぱずかしい。昔からわかっていたけれど、日々誌って皆に見られているのだよな。 一瞬アミが手痛いミスを目の当たりにした表情を見せた。 「……あー」 あーっとはなんだよ! あーって、あーって。 「これは胡散臭い。」 これまた心底楽しそーうに笑い出す。でも紅茶のときよりは静かだな。ん、紅茶って響だけで瞼が重くなる。 「お前ちょっと才能あるよ。架空請求でもやってきたら?」 よく表現の意味がわからないが、なんだか馬鹿にされている気がする。 「よくまぁこんな恥ずかし……怖いものがないのですね!」 「うるせえうっせるっさい!」 なんとなく癪に障ったのだ。確かに今ものすごく恥ずかしいが。赤面しているだろうなぁ。あ、でも俺元々赤い肌だったな。 「ふぅ、……関係ないが、リバースって随分ボロボロなコースターを使っているんだな。」 ボロボロのコースター?ああ、この毛糸のやつか。 「んひ、これにはな、ちょっとした思い出があるのだよ! 俺が身支度を済ませたがるきっかけでもあるのだが。」 ちょっと胡散臭く威張ってみせる。む、また『胡散臭い』が出てきた。俺はそんなに胡散臭いものなのか? 「へぇーそのコースターにどんな思い出とやらがあるのですかねぇ、ちょっと興味がわいてきましたよ。」 アミがそんなことを言ってみせているが、絶対わいてない。この顔は絶対興味が無い。口角が釣りあがっただけじゃんか。 でも思い出話は一応あるわけだ。一応。 俺は場面が変わるよアピールをしたくて、気取ったように咳払いを2回してみた。 「さて、このコースターとは、どんな素敵な出会いをしたのだろうか。」 口調も少しだけ気取ってみせた。いつもこんな感じなのだがな。 「さぁ? 落し物? そのまま、ネコババ。んでボロッボロ」 クイはとんでもないことを14の俺にやらせる。 「こらこらこら、どれだけ俺を悪者に仕立て上げたいの。」 クイは少し微笑んだ。 「だよなぁーさすがに俺もやらないしな。」 もし本当に落し物を拾ったのならダッシュ全開。質に入れている。 「リバースの事です。普通に買いました?」 アミがこれまた興味なさそうに言う。なんだよ、さっき興味深いとか言ってたじゃないか。 「半分くらい正解だな。」 とりあえず半分。 「なんて、普通すぎるだろ。ただのコースターじゃんか。」 なんだつまらない、とでも言いたげな顔だ。半分正解と言っただけだから半分違う。 「まぁまぁそんなことを言うものでもないぞー。これはな、アミの言うとおり、雑貨店で買おうとした物だ。5年前の俺はこんなものに興味はなくて、そのまま通りすぎようとしたんだ。そしたらさ、店の球が手編みしているらしく、そこんとこずっと忙しかった俺はちょっと温かい気持ちになったのさ。若い球だった。」 わざといやらしくいってみる。こういう奴って結構嫌われそうなイメージあるのだが。 「手編み? この地域の若い球には珍しいな。」 確かに編み物の技術は現代には珍しく、あるとすればこんな暑い気候の所なんかではなく、もっと寒い地域で活躍しているだろう。クイの言うとおりだな。 「まぁそんで、俺も珍しいなと思って店の球に話を聞こうとしたのだよ。そのとき俺は風呂も4日ぐらい入っていなかった事を忘れていた。うがいなんて一週間していなかった。」 アミが少し顔を歪めた。 「ああ、俺は普通に話しかけたよ。そしたら店の球ったら、一瞬、今のアミみたいに顔を歪めて話をしようとしてくれたよ。」 俺がアミを差したときにはアミの顔は元に戻っていた。クイはアミの歪んだ顔を見逃したようで、少し不思議そうに俺を見て小首を傾げた。 「でもな、店の球、自分の名前を言っただけで倒れたんだ。そのときは万引き扱いとかされちゃ困るからひきかえしたんだけど。後で自分の臭いの所為だってわかってから毎日毎日身支度をちゃんとするようになった。」 「……なんだ」 「おいおいおい、この話にはまだ続きがー」 「いやいやいや、どうせ詰まらないからいいよ。」 速やかにクイに話を遮られる。 だが、ここからは本当につまらない話だったから俺は何も言えなかった。 話をクイに遮られた後、俺の話が原因で指導室は白けた。聞こえる音といったら本を捲る音と水音。またこれか。さすがに長い間続くと飽きるぞ。昼寝はさっきしたからもう眠れないぞ。 7月17日 12時43分 指導室 「お昼ご飯がまだでしたね。」 アミの一言で俺はまた目が覚めた。さっきは心の中で眠れない眠れないとまくしたてていたはずなのにまた寝ていたのだ。お茶の力でもあるな。さすが俺の大好物だ。 俺達は食堂へ向かった。夏季休暇の為に、コックのウィルデは里帰りをしている。ウィルデに限らず、メンバーの半数は里帰りに出かけているし、夏季休暇ぐらいは、ウィルデの手間を掛けたくはない。 アミは去年まで料理関係のアルバイトをしていた所為か、少ない食材でもまぁまぁの料理が作れる。だが俺とクイは致命的に料理が下手だ。 ウィルデ不在時のアミは大げさに言えば生命線でもある。もしここで本人の機嫌をそこねたりでもしたら自分たちで作るか、ここから2時間歩いてたどりつく街まで行くかだ。だから食事近くなると俺もクイも急におとなしくなる。今日は最初からおとなしかったが。 食堂に入ると、ファライドが居た。相変わらずファライドは何か良からぬことを企てていた。台の上には水鉄砲と塩と水。こいつ、水鉄砲に塩水入れる気だな。 「おお、照明さんか、おはようさん。」 ファライドに朝の挨拶をされる。 「もう立派な昼だよ。」 「ああそうだったか。じゃあさっき食べたのは昼飯か。」 あ゛、まずい今思い出した。アミはファライドが大嫌いだったのだ。この小柄でちょろちょろと動く男が鬱陶しいみたいだ。アミはファライドを見ただけで機嫌をそこねてご飯を作ってくれない。それでは2時間歩く羽目になる。早くファライドを追い出さなければ。 「ファライド、塩水鉄砲を作っているのだな?」 少し作ったような口調で気づいてくれることも少し期待してみる。 「あ、ああ、そうだが?」 この様子では、気づくわけないがな。 「手伝ってやるよ!」 ファライドも水鉄砲が作り終われば出て行くだろう。そう企てて俺は大急ぎで塩水を作った。作ったが…… 「わ」 安易にコップは割れた。俺が握っただけで割れた。緊張して力んでいたみたいだ。いつのまにか手汗がすごい。ぬるぬるだ。 まずい。これではファライドはあと15分はここにいるだろう。駄目だ。絶対にアミがご飯を作ってくれなくなる。19にもなったら食べ盛りは過ぎると思われているが、今日に限ってお腹が空いている。めちゃ食いたい。そしてクイは同い年だがまだ食べ盛りだ。めちゃ食いたそう。 だがアミは学生だったころの影響もあり、不健康かつ不規則な生活に慣れている。食事一回抜いたぐらいでは影響はない。俺は一回抜いただけで動けなくなる。 なんとか食事を作ってもらえる方法はないか……そうだ。ファライドをなかったものに……。そんな考えが脳裏をよぎったが、ファライドは有能な役者。消したら一回の食事どころか、食事する為の資金がなくなってしまう程だ。演劇のクオリティとやらがガタ落ちだ。 「ま、しょうがないな、お前ら食事はまだだろ。先食べてろよ。」 偉そうに言っているが、お前の所為で食えていないのだ。もうそろそろアミが出て行ってしまうだろう。 俺の予想通り、アミが扉を閉じる重い音が聞こえた。クイが体の上部を抱え俯き、静かに喚いた。俺達はちょっとした生命線とやらを失った。 「おろ? 調理係さん出ていっちまったぞ?」 なんとも不思議そうに言うがお前の所為だ。 大体、ファライドはアミに嫌われていることを自覚していないことが厄介だ。 何度か『嫌われているらしいから近づいたらダメダメヨ』ということを伝えようとしたが、『おう、わかったぜ!』と言いつつ早速アミに話しかけるのだ。『厄介なんてカワイソウ!』なんてよい子ぶった発言はすぐ弾かれてしまうだろうよ。だって本当に厄介。今俺達はこいつの所為で生と死の狭間を垣間見るかもしれんのだ。なんだか状況を整理しているだけで腹が立つ。 「なぁリバース。」 唐突にクイが上体を上げ、喋りだした。 「唐突だな、何だよ。」 「こんな状態で、2じかんも歩きたくないよなぁ。」 「あ、当たり前だ。」 クイは空腹で僅かに声が震えている。あと何故か視線が合わない。クイも俺も向き合って同じ所を見ているはずなのだが。 「俺達もそろそろ自分で料理が出来るようにしておきたい。」 俺はクイの話が完結する前に何を言いたいのかがわかった。普通にわかるか。 「正気かよ、アミに料理を教えてもらったときは食った瞬間怒涛の羊が俺に向かってくる夢を見た。」 食った瞬間にぶっ倒れてそのまま夢の中へ、ビジョンビジョン。 「だがこのままだと夢も見ることが出来なくなってしまうかもしれない。」 「ですよねー」 俺はなんだか説得力のあったクイの意見にあっさり流され、料理を作ることになった。 7月17日 12時50分 食堂 材料はそのままでは食べることが出来ないような物以外には、食パンが2枚あったきりだった。もちろんこのままでは調理中に野垂死ーなんてこともあるから1枚づつ食べてしまった。 パン一枚なんかでも結構な効果があった。震えた声も体力気力も少し楽になった気がした。 「よし、じゃあ早速。何作る?」 クイも元気を取り戻したみたいだ。これから食べるであろう料理を考えている。食べることが出来るかどうかは別だが。 「この材料からすれば、うーん。炒飯と豚汁?」 調味料は一通り揃ってそうだし、米とか卵とか細かい物もあるでしょう多分。 「ん? とんじる?」 急にクイが不思議そうな声を出した。 「うん。豚汁。お前の島にもあっただろ?」 クイは小さな島の出だが、豚汁ぐらいはどんなに辺鄙な島でもあるはずだ。だが何故かクイは何か言いたげな顔をしている。 「なぁ、とんじるってどんな物だ?」 「え、豚汁は味噌汁に豚肉入れたやつだよアレアレ。知らないわけないだろ?」 まさかクイの育った島には豚汁はないのだろうか? 「は、それぶたじるだろ。ぶたじる。」 ぶたを強調していわれた。 「ぶたじる? なんだそれは。」 聞いたこともない料理だ。 「何って味噌汁に豚肉入れたアレだようん。もしかして知らないのか?」 俺と同じような事を言っている。あ、なんだ 「うーん、地域でとんじるとぶたじるで分かれるんだなー。」 「どうやらそうみたいだな。」 ふむ、ふむと無意味に縦に頷き納得した様を見せ付けた。 「じゃ、早速料理に取り掛かるかー。」 俺は張り切ってみせた。が、 「おい、最初何やるんだ?」 いとも簡単に遮られた。俺もわからないのだ。 「わかんない。」 「だよなぁー。」 俺もクイもうんうん唸り悩み始めた。こうなるとなかなか取り掛かれないだろう。自覚はしている。だが直すことは出来ない。やらないのではない、出来ないのだ。 「お湯でもわかして具切っておきゃあいいんじゃないか?」 何故か暫く大人しかったファライドが口を開いた。手元を見ると水鉄砲は完成していて、台には『かやくのいらないほしにやさしいばずーかさくせいきっと』と書かれた箱が置いてあり、平仮名ばかりの可愛いキット名には不似合いなゴツい機械や部品が置いてあった。あいつはいつのまにこんな物を持ち込んでいたのだろうか。 でも発言は十二分に役に立った。クイと二体でははぁ〜と声を上げながら料理に入れたい物を切った。昔隠し芸として習得した俺の剣舞が役に立つ日が来るとは思いもよらなかったさ。 「こうやってゴッチンゴッチンって音鳴るの楽しいな! でもウィルデがやっているときはそんな音してなかったよな……? まぁいっか。」 独り言までこぼして、文字通りゴッチンゴッチンと安っぽいような愉快な音が流れ、いい具合に葱も肉も生卵も切れていった。 生卵を包丁でカツカツとまぁ何にも勝つ必要もないが縁起の良い音を立てながら切ろうかと思い包丁を両手持ちにして振り上げたとき、 「おい、生卵を包丁で切るのはおかしいと思うが。」 とファライドに言葉で遮られた。 「卵は炒飯に使う。切らずにどう調理しようと言うのだ。こんな硬い物。」 俺はこつこつと少し生卵を叩いてみせた。 「そ、そうか。俺も料理は全然詳しくないから何も言うつもりはなかったのだが……。」 そうかそうかと喉元まで上がった疑問を飲み込み、少し複雑な表情をした後、ファライドは『かやくのいらないほしにやさしいばずーかさくせいきっと』の組み立てに取り掛かった。 「おーい、湯沸いたぞー!」 クイに呼ばれている。 「お、おう!」 そのまま俺は料理に取り掛かった。 7月17日 2時5分 食堂 「わ……すっげ、完璧。」 クイが感嘆の声を上げ、恍惚の表情をしてみせる。そしてクイにつられ俺も表情を恍惚とさせる。自分で思うのもおかしいが、これはかなりの見栄えだ。普段食べているような炒飯と豚汁とは違う。 何がすごいかって、炒飯の色合いは高貴な色とも言われる紫に変化し、所々に散らばった卵は赤く燃え上がり全体のアクセントとなっている。燃え上がっているという表現は比喩表現ではない。本当に燃え上がっているのだ。魅力的すぎる。 そして豚汁は自らの存在を主張するようにボコボコと、擬音語にすればありがちだが実際に聞いたことも無いような泡の破裂音が聞こえる。スタミナ満点だろうな! 楽しみだな! 色合いもまた鮮やか。落ち着きのあるイメージの茶色い汁の所々に虹色の具が散りばめられている。きっと味も食感も虹色に違いない。香りまでも虹色だ。 こんなに素晴らしい料理を作ったのは初めてだろう。どこまでもユニークで底なしの個性を持った傑作だ! だが何故かファライドは炒飯と豚汁を一目見て、 「傑作だな。」 と言い放ったきり、自室に帰ってしまったようだ。まぁでもこの料理の良さをわかってくれて嬉しいのが本音だがな。 「早速食おうぜ! 俺料理に夢中で気づかなかったけど、俺もう空腹で死にそうだ。」 クイは微笑みながらそんなことも言っていた。 確かに久しぶりに作った命のロープとも言えよう料理は純粋に楽しめた。こんなに楽しいのも久しぶりだったなー。 「俺もだ!」 俺達は駆け足気味で食器を用意し、盛り付けをした。量もそりゃ多い物だから、足りない事はないだろう。 そして、俺達の傑作が目の前に綺麗に盛り付けられ、とうとう楽しみにしていた時がやってきた! 俺達は同時に元気良く『いただきます』の挨拶をしたら、同時に炒飯にしゃぶりつく。 その瞬間、俺は、何だろう。とても表現できないようなふわふわと幸せな気分を掴んだ。
投稿者コメント
オリカビ要素バリバリの小説書きましたー 一話から話が破綻していますがアドバイスもらえると嬉しいです。 紅茶好きの方はご注意ください。 SSを目指しましたが、 文字数がギリギリなため(9671文字)二話完結になると思います。 ちなみに、途中で出てくる大体の「球」という事場は「人」と置き換えて読んでください。 日々誌とは、ビぃえデぃットの中での日誌です。多分。
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