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小説「
荒野の風
」を編集します。
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作者名
桜木ハル
タイトル
*
内容
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ここは開拓者たちが集う町。色々な事情で住み慣れた土地を去った者たちが、新天地を求めてやってきてできた町だ。『町』といってもその歴史は浅く、作りかけの家も多い。人々は荒野の厳しい気候の下、毎日のようにせっせと働いていた。 「マスター、おかわり」 そう言うと、客は空のコップを差し出した。 町の一角にある、食堂も兼ねたこの酒場は、男たちの憩いの場所となっている。よそから来た者は、まずここで歓迎されるというのが町のしきたりだ。さっきも二人の若者が店に入ってきて歓迎を受けたばかりだった。 歓迎会を終え、今店内にいるのは、その二人の若者と店主のみだ。若者のうちの一人は、店主にコップを差し出しては酒を飲み、空にしてはまたコップを差し出し…と、何度もおかわりを続けている。 「お客さん…そんなに飲んだら歩けなくなっちまいますよ」 客の虚ろな目を覗き込みながら、店主のカワサキは言った。 「大丈夫だって…ひっく、おっと!」 ガチャン! よろけた拍子に、客は近くにあった花瓶を落とした。 カワサキは思わず目をつぶった。 「兄さん、飲みすぎだよ。そんなに飲んだら体壊しちゃうよ! それに、僕たちここに来たばかりでお金もそんなに持ってないんだから…ちょっと、聞いてるの? 兄さん!」 隣で心配そうにしていたもう一人の客が言った。どうやら飲みすぎの客の弟のようだ。 弟の心配をよそに、兄はカウンターに座ったまま寝息を立て始めた。 「もう…兄さんったら…。ほら、行くよ!」 そう言って弟は無理やり兄を起こすと、立ち上がった。 「ちょっと、お客さん!」 代金を払い、そそくさと店を出ようとする二人の客を、店主は引き留めた。 「もう夜も遅い。この町は色々と物騒だから、今日はここに泊っていきな」 「え? でも…」 「いいから泊っていきな。今日来たばかりなんだろう? 慣れないうちは何があるか分かったもんじゃない。それに、君たちの旅の話を聞きたいしな」 カワサキは二人に向けてウインクした。 二人は一晩だけここにお世話になることにした。 「僕の名前はディー。ディー・ワドルディっていいます」 店の奥の部屋に入った若者は、被っていた帽子を机の上に置くと、早速自己紹介を始めた。 「そしてこちらは僕の兄、ドゥー・ワドルドゥ」 ディーは、早々とベッドに入って眠っている自分の兄を指さしながら言った。 「僕たちが旅を始めたのは…」 そこまで言うと、ディーは一旦言葉を切った。僕らはまだこの町に着いたばかりだ。それなのに、こんなに簡単に自分たちのことを喋ってしまっていいのだろうか? 本当に、この人は信用できるのだろうか? ディーは不安になった。 ちらっとカワサキの顔をうかがうと、彼は人なつっこい笑みを浮かべている。 「うんうん、それで?」 興味津々といった表情でディーのほうを見つめ、あいづちを打つ。その様子には、少しも嫌な感じは見受けられなかった。 (この人が悪い人には見えないなあ…) どうやら信用できそうだ。ディーは、自分たちがこの町まで来た経緯を話し始めた。 「僕たちが以前住んでいたのは、ここからずっと東のほうにある、小さな田舎町です。緑も多く、とても平和な所でした…」 ディーが語った話は、だいたい次のような内容だった。 二人の実家は農業を営んでいた。父親を早くに失い、二人は母親に育てられた。懸命に働く母親を、兄弟はいつも助けてやっていた。大雨が降った年。日照り続きの年。害虫の被害の多い年――。自然を相手にする仕事は、そんなにうまくいくものではなかったが、家族は日々の暮らしに満足だった。 あの事件が起こるまでは。 その年は豊作に恵まれ、町は収穫祭の準備で大忙しだった。ディーたちの家も、祭りの出し物の準備や町の飾り付け、ごちそうの用意など、様々な仕事をこなしていた。日を追うごとに、町は活気づいていった。 収穫祭の前夜、悲劇は起きた。荒くれ者の集団が襲ってきたのだ。集団はまず建物を徹底的に破壊した。そして金目の物があると分かると、見つけ次第盗んだ。貯蔵されていた穀物もほとんどが奪われた。あまりにも突然の出来事に、住人はあわて、うろたえ、逃げ惑った。 荒くれ者たちは、自分たちを邪魔する者は容赦なく殺した。住人たちの先陣を切って戦おうとした町長一家も、自分の土地を荒らされて怒った地主も、襲われた我が子を必死になって守ろうとした親たちも、全てが事件の犠牲となった。 やがて荒くれ者たちは、来た時と同じように突然に、月のない闇夜に紛れて姿を消した。のどかな田舎町は、一夜にして変わり果てた姿となった。 ディーとドゥーも、この騒ぎの中で母親を失った。家を失い、肉親を失い――生きる希望も失いかけていたディーに、兄は言った。ここからずっと西、荒野のはずれに、行き場をなくした者たちが集まる町があるということを。そこでは皆、過去を忘れて楽しく暮らせると聞く。暗い過去を捨て、未来への希望に燃える人々。ディーにはその町が楽園のように思えた。 翌朝、兄弟は家の中を漁ると、あるかなしかの荷物を持って故郷をあとにした。西へ続く道を行く二人の耳には、家族や友を失った者たちの嘆きがいつまでもこだましていた…。 ディーは口を閉じた。しばらくの間、誰も何も言わなかった。 最初にその沈黙を破ったのはカワサキだった。 「何というか…その、ごめん。君たちにそんな過去があったとは知らなくて…」 カワサキはそれっきり黙ってしまった。その様子を見たディーは、あわてて言った。 「いえ、いいんですよ。文字通り過去のことですから…」 ディーは苦笑すると、ベッドに用意されていた布団を下ろし、床に敷き始めた。 「ええ! 床に寝るのかい?」 「はい。カワサキさんがベッドを使って下さい。泊るのは一夜だけですし、僕は別に構いませんから…では、おやすみなさい」 そう言うと、ディーは布団に潜った。 「よくできた弟だなあ…」 カワサキは二人に聞こえないよう呟くと、自分も寝る用意をした。 翌日、ディーとドゥーは店で朝食をとると町に出た。母の命を奪った犯人を突き止めるためだ。 二人は犯人の顔をしっかりと覚えていた。そいつがあの集団のリーダーであるらしいことも。故郷の町を襲ったのは、あの慣れた手つきからするとおそらく有名な犯罪者集団だろう。しかし、酒場に貼られた指名手配のポスターにはそれらしき顔は見当たらなかった。 やはり、こういったことを調べるには保安官に聞くのが一番だろう。そう思って、先ほどから二人は町を歩いていた。ところが、この町に来たばかりの二人には、どこに何があるのかさっぱり分からなかった。 「おい、ディー。警察署の場所を誰かに聞いたほうが早いんじゃねぇか?」 ぐるぐると同じ場所を回ってばかりいるディーに我慢できなくなったのか、ドゥーが少し怒ったように言った。 「だめだよ、兄さん。これは僕たちの問題なんだから。それに、この町は物騒だ、ってカワサキさんが言ってたでしょ。親切な人ならいいけど、変な人に聞いちゃったらどうするのさ」 「ディーは心配性なんだよ。それに何だよ、真面目ぶって! まるで俺が馬鹿みてぇじゃねぇか!」 「馬鹿って…そんなこと一言も言ってないじゃん! 兄さん、耳がおかしいんじゃないの?」 「何だと! お前こそ頭がおかしいんじゃないのか? え?」 兄弟は、周りに人がいることも忘れて大声で互いの悪口を言い合った。そのうち、兄が弟の頭を叩いたことをきっかけに、言い争いは殴り合いの喧嘩へと発展した。 あまりにも喧嘩に夢中になっていたので、二人は自分たちがどこへ向かって歩いているのか全く意識していなかった。 気付くと、二人は暗い路地裏に迷い込んでいた。 『この町は色々と物騒だから…』 ディーの頭の中に、昨日のカワサキの言葉が響く。ディーは寒気がした。 「兄さん、戻ろう」 ディーは、平気な顔をして先に進もうとする兄の手を引っぱった。すると、ドゥーはむっとした顔で振り返った。 「何だよ」 「兄さん…ここ、なんだか変だよ。あっちの明るい通りに戻ろうよ」 「さっきから変、変って、しつこいんだよ! 何が変なのか言ってみろよ」 まずい。また喧嘩になりそうだ。これ以上反論しても無駄だと感じ、ディーは兄を無視して大通りのほうに歩き始めた。 「ディー! おい、ディー! 待てよ!」 ドゥーは駆け出そうとした。 すると、後ろから何者かの声がした。 「どうしたのかな? ぼうやたち」 驚いて振り返ると、二人の背後にいつの間にか大柄な男がついてきていた。さらに、その男のあとにも二人の男が控えているのが見えた。 「有り金全部寄こしな」 男は腰の拳銃を抜くと、兄弟に向けた。 この町は色々と物騒だから…。そういうことだったのか。ディーは、ようやくカワサキの言ったことを理解した。そして後悔した。どうして喧嘩なんかしたんだろう。あの時、あんなつまらないことで喧嘩しなければ良かった…。しかし、いくら後悔しても遅い。ディーは目の前が真っ暗になった。 「ディー! 何やってんだよ! ぼーっとしてないで逃げろ!」 「そうはさせねぇ」 男はドゥーを抑えつけた。 「兄さん!」 「おっと、動くな。動いたらお前の兄さんの命はないぞ。分かったらここに持っている金を全部出しな」 そう言って、男は自分の手を差し出した。 この男の言う通りにする他ない。そうしなければ兄さんは…。 「はい…」 ディーは財布を取り出すと、男に渡そうとした。 その時。 ドンッ! ものすごい勢いで大通りから誰かが飛び出してきたかと思うと、男は後ろに弾き飛ばされた。 「このっ! 何をする…うわあぁぁぁ!」 反撃しようと身構えた男は、再度倒れた。その誰かは、素早い攻撃で男たちを圧倒していた。 やがて捨て台詞を吐くと、男たちは姿を消した。 「あ…ありがとうございます」 「気を付けな。ここは悪人のたまり場になってんだ。見かけねぇ顔だな…お前たち、新入りか?」 「はい」 「そうか。なら自己紹介が必要だな…。俺は保安官のジョー・ナックル。しかし、こんな路地裏でうろうろして…お前たち、もしかして道に迷ったのか?」 二人は、今話している相手が保安官だと分かり安心した。しかし、先ほどまでの恐怖がまだ頭に残っている。兄弟は黙ったままでいた。 その様子をジョーは半分笑って眺めていた。 「図星か? ふふっ…誰だってここに来たばかりの時はそうだったぜ。みんなお前らみたいに茫然としやがるんだ。でもなあ」 少し間を開けると、ジョーはさらに続けた。 「お前らみたいな馬鹿づら、初めて見たぜ! その顔! そのままじゃ目玉が落ちちまうぜ!」 そう言って大声で笑うジョーを、二人は困った顔で見つめていた。 「あいつの名前はボンカース。一緒にいたのはあいつの子分でキャピィとブロントっていう奴らだ」 兄弟と並んで歩きながら、ジョーは二人を襲った犯人について語っていた。 「あいつらは自分より弱そうな奴を探しているんだ。もちろん金目の物を奪い取るために。でもな、あいつら意外と根性がねぇから、ああいう暗い路地なんかで待ち伏せしている。まあ、こっちから近づかなけりゃ何もできねぇ連中だし、俺もいちいち構っちゃいねぇんだけどよ」 ジョーは頭を掻いた。 「さあ、着いた。ここが警察署だ」 そして紹介を終えると、建物の中へ入っていった。兄弟も後へ続いた。 少し落ち着いたころ、ジョーが口を開いた。 「…で? お前さんたち、なんか用なんだってな」 「はい。実は…」 ディーは、自分たちがこの町に来るまでに起こった事件のこと、事件の犯人を捜していることを語った。そして最後に、犯人のグループがこの町に逃げてきているのではないか、と自分の考えを伝え、話を結んだ。 「そうか…話は大体分かった。それで、犯人の名前は?」 「いえ、名前まではちょっと…」 ディーはうつむいた。 「困った。名前が分からないんじゃ調べようがねぇな…」 ジョーは、しばらく何か考え事をしながら部屋の中をぐるぐると回っていたが、急に足を止めると、思い出したように言った。 「もしかして、犯人の顔は覚えてたりしねぇか? 顔さえ分かれば捜せる」 ジョーは机の引き出しを探ると、紙の束を取り出して二人の前に差し出した。 「手配書だ。どうだ? この中に思い当たる顔の奴はいねぇか?」 そう言って、ジョーは紙をパラパラとめくった。 「あっ! この顔!」 「何! どれだ?」 「これです! この顔は犯人に間違いありません!」 ディーは紙の束から一枚を抜き取った。 「こいつは…『狼殺し』のリーダーじゃねぇか!」 「おおかみ…ごろし…?」 初めて聞く名に、ディーは首をかしげた。それがあの集団の名前なのか…? 「この辺じゃ有名な犯罪者組織だ。数年前からぱたりと姿を見かけなくなったんで、ポスターもはがしちまったんだ。まさか東のほうで悪さをしていたとはな…もっと調査しておきゃあ良かった…」 ジョーは唇をかんだ。 「それで…このリーダーの名前は…?」 「デデデだ。それが本名なのかは分からねぇが」 狼殺しのリーダー・デデデ…。兄弟は、やっと事件の核心に迫ったと実感した。 その夜、酒場は大騒ぎだった。再び『狼殺し』のメンバーの指名手配ポスターが貼られたからだ。恐怖の犯罪者集団の再来について、集まった者たちは口々に自分の意見を言い合った。そのうち、「救世主が現れ、悪をこらしめる」などといった類のうわさまで飛び交うようになった。 「君の故郷を襲ったのが、まさかあの狼殺しだったとはね…」 「ええ、僕らも信じられません…そんなに恐ろしい奴らだったなんて…」 テーブル席で騒ぐ人々を横目に、兄弟はカウンター席で店主と話していた。 「救世主だなんて…そんなもんいるわけねぇよ」 ちびちびと酒をすすりながら、ドゥーは呟いた。 兄の言葉を聞き、弟はひらめいた。 「兄さん、僕らがその救世主になろう。母さんのかたきをとるんだ!」 「なっ…!」 ドゥーはあやうく酒をこぼしそうになった。 「おい、いくらなんでも、そんなことできるわけねぇよ!」 「やってみなくちゃ分からないでしょ!」 また喧嘩になる! ディーは思った。だが、めずらしく兄はそれ以上反論しなかった。 「そうだな…俺だってあいつらのことは許せねぇ。ディーの言う通りだ。駄目かもしれねぇが、そんなこと、やってみなくちゃ分からねぇ」 「兄さん…うん、そうだね。絶対にあいつを倒そう!」 そうと決まったら早速行動開始! …といきたいところだが、二人はリーダーのデデデのことはおろか、あの集団についてもほとんど知らない。とりあえず敵の情報は多少なりとも知っていたほうが良い。騒ぎ合う人々を押しのけ、兄弟は壁に貼ってあるポスターの前に進んだ。 ポスターには、手配されている者の似顔絵や懸賞金額の他に、その者の犯した罪が書かれていた。見ると、デデデはすでに百以上もの罪を犯していた。もちろん、ここにあるのは報告があった犯罪のみだ。ここに載っていないものも含めたら、きっと数えきれないほどの数字になるだろう。 (なんて酷い奴なんだ…!) 怒りがこみあげる。ディーは自分でも気付かないうちに手を握りしめていた。 「そいつには関わらないほうがいい」 「…!」 いきなり後ろから声がした。驚いて振り向くと、そこには仮面の男が立っていた。突然の出来事に、兄弟は黙ったままでいた。男はこちらを向いているが、顔は冷たい仮面でおおわれており、その表情をうかがうことはできない。 「驚かせてしまったかな。すまない」 しばらくすると、相手のほうから話しかけてきた。その声の調子は優しく静かなものだったので、兄弟は警戒をといた。 「もう一度言うが、そいつには関わらないほうがいい。今まで奴を捕まえようとした者は何人もいたが、全て殺された。…デデデはそれほど恐ろしい奴なのだ」 「え…でも、僕らは…」 「君たちもデデデに恨みを持っているのだな? 奴に何をされたのかは知らんが、関わらないのが身のためだ。やめておけ」 男は立ち去ろうとしたが、ドゥーが一歩進み出て、その背中に言葉を浴びせた。 「おい、おっさん、『君たちも』と言ったな。おっさんも何かデデデに恨みがあるんだろ? いったい何なんだ」 男はおっさん呼ばわりされたのを気にしたのか、一瞬だけ体を震わせた。しかしすぐに店の出口に向かうと、紫のマントを翻し、夜の闇へと消えていった。 二人は顔を見合わせた。しかし、それは困った時にするような弱々しいものではない。兄弟は母親のかたきをとることを再び誓い合ったのだった。 皆が寝静まった真夜中。兄弟は揃って町に出た。 もちろん二人は、以前のカワサキの言葉を忘れたわけではなかった。だからこそ、こうして真夜中に外に出たのだ。 『悪は闇を動く』。それが、この二日の間に兄弟が得た教訓だった。深夜は物騒だというカワサキの言葉。暗い路地での出来事。よくよく考えれば、故郷が襲われたのも闇夜のことだった。全ての悪事は闇の中で行われる。だとすれば、きっとデデデも夜に現れる。つまり、デデデを倒すチャンスは夜なのだ。兄弟は危ない賭けに出た。 深夜の冷たい空気の中を、ディーとドゥーはただひたすら歩いた。聞こえるのは自分たちの足音だけ。それ以外は物音一つしない夜の町を、二人は歩き続けていた。 カサッ ふいに紙くずを踏みつけるような乾いた音が響いた。続いて、靴が地面に当たるような音。 …また静かになった。 兄弟は身を寄せ合って震えていた。やはり、いざとなってみると怖くて仕方がない。ついに一歩も動けなくなり、その場に立ちつくしてしまった。 バーン! 突然銃声が響いた。 チュン! 弾は兄弟の足元をかすめて飛んでいった。 「こんな夜中に出歩くとは…いい度胸だな」 「…!」 声のするほうを振り返る。すると路地の奥から一人の男が姿を現した。金の飾りに縁取られた赤い帽子と、血のように真っ赤なガウン。大柄な体格。そしてあの相手を見下すような気取った視線――。 忘れるはずがない。いや、忘れようとしても忘れられない! 兄弟はありったけの憎しみを込めて男の名を呼んだ。 「デデデ!」 そう。目の前にいるこの男こそが、二人の母の命を奪った張本人。この男こそが、犯罪組織『狼殺し』のリーダー・デデデ。 (こいつが…母さんを殺した犯人…!) 恐怖はいつの間にか激しい怒りに変わった。 (こいつが…僕らの大事な家族を…奪った…!) ディーは腰の拳銃に手を掛けた。 震える手で拳銃を握るディーを見て、デデデは嘲笑した。 「ふん、貴様らはあの時の子供か。そんな武器一つで俺に勝てるとでも? 貴様も母親と同じように犬死にするだけだ」 その時、ついに我慢できなくなってドゥーが叫んだ。 「許せねぇ!」 弟が止める間もなく、兄は敵に向かって突撃した。 その瞬間、ドゥーの帽子が撃ち抜かれて宙を舞った。幸いにも弾は頭をかすめただけだった。 「今のはわざと外した…」 デデデは表情を変えずに続けた。 「貴様らもさすがに命は惜しいのだろう? ここで起こったことは一切口にするな。そして二度と俺の前に姿を見せるな! そうすれば見逃してやる」 「嫌だ!」 「死にたいのか? …まあいい。ここで貴様らを逃がしてはあとあと面倒なことになりそうだしな」 再び兄弟のほうに銃が向けられる。 「これでサヨナラだ。地獄で母親と仲良くなぁ!」 デデデは引き金に指を掛けた。 バアーンッ! しかし、倒れたのはデデデだった。兄弟がやったのではない。弾はどこか遠くから飛んできたのだ。 驚く兄弟の遥か後ろで、一つの影が暗闇にその姿を消した。 翌朝、町は兄弟のうわさでもちきりだった。誰が言い始めたのか、二人はデデデを倒したことになっていた。兄弟は悪をこらしめた救世主として褒め称えられた。もちろんデデデを倒したのは二人ではないのだが、兄弟はそのことを言い出せずにいた。 「お前らすげぇな。あのデデデを倒したのか」 そう言って近寄ってきたのはジョーだった。 「え、で、でも、僕らは――」 あわてて否定するディーの言葉を、ジョーはさえぎった。 「分かってるよ。お前らだけの力であいつを倒せるとは思えねぇ。誰だか知らねぇが、助けてくれた奴には感謝だな」 「でも…」 「まあそう深く考えるな。みんなお前らがやったと信じてる。なに、そんなに問題じゃねぇだろ? このままにしておこうじゃねぇか。真実は、俺たちだけの秘密だぜ」 ジョーは笑顔でウインクした。 「そうですよね…」 ジョーの押しの強さと笑顔に負けて、二人は真実を隠すことに決めた。 「おーい!」 道の向こうから、酒場の店主のカワサキが走ってきた。 「二人ともここにいたのか。実は君たちに渡したいものがあって…」 カワサキはエプロンのポケットから、金色の鎖につながれた緑色の石を取り出した。 「ええと、これは…ペンダントなのかな? メタナイトという方から君たち兄弟に渡すよう言われて持ってきたんだけど…これ、どう見ても女ものだよねぇ?」 そう言って、カワサキはそのペンダントを差し出す。その途端、ドゥーの顔色が変わった。 「これは母さんの!」 「ええっ!」 「これは母さんがまだ若い頃、父さんからもらったものなんだ。そういえば母さん、いつもこれを付けてたっけ…」 母親を思い出しながら、ドゥーは緑色にきらめく石を撫でた。 意外な展開に驚きを隠せないカワサキに、ディーは尋ねた。 「カワサキさん、メタナイトさんはどういう方でしたか?」 「え? 知り合いじゃないのかい?」 「ええ…聞いたことない名前です。どういう方でしたか? 例えば服装は?」 「紫の帽子とマントを付けた人だったなぁ…仮面で素顔は見えなかったけど」 兄弟は顔を見合わせた。昨日酒場で会ったあの仮面の男に違いない! (あの人、僕らのこと心配してくれてたし、きっと取り返してくれたんだ…もしかしたら、デデデを倒したのもあの人かな…) 二人は仮面の男に感謝した。 (あれ? でも、どうしてメタナイトさんは母さんのこと知ってたんだろう?) しかし、彼が姿を消した今では、その理由を調べることはできそうになかった。 その後、兄弟はその勇気を買われて町の自警団『荒野の風』のメンバーとなった。今では二人も立派に仕事をこなしている。 『狼殺し』のリーダー・デデデは重傷を負ってはいたものの、命は助かった。メンバーは全員捕まり、皆仲良く牢屋送りになった。また、その後の調査でボンカースたちもあの犯罪組織の一員だったことが判明した。 結局、もうメタナイトに会うことはなかった。そのため、謎は謎のままとなってしまった。今頃はどこか遠くの町に向けて旅でもしているのだろうか? そんな風に空想しては、兄弟はあの仮面の男に深く感謝するのであった。 今日も荒野に風が吹き抜ける。 人々の明るい笑い声を乗せて。
投稿者コメント
西部劇の世界が舞台の短編です。文字サイズは中以上をおすすめします。 本当の西部劇は観たことがないので、イメージで書きました。 想像で書いたのでおかしいところもあると思いますが、そこは無視して読み進めて下さい。 キャラの服装などはUSDXの早撃ちでのものが参考です。 世界観に合わせて一部のキャラの性格を変えたり改名したりしていますが、 そこはフィクションということで了解して下さい。
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